あれは、初めて「自分」を貰った日。
鳳仙花
これが毎日食えるなら一生此処にいてもいいかもしれない。昨日の予想通り、温室にやってきたセンカといつものように噴水の縁に並んで座り、もう何度目かになる手製の弁当に舌鼓を打つリンドウは唐揚げを横取ろうと膝に飛び付くレンギョウから弁当箱を死守しながら、冗談にしては悪すぎる気持ちの悪い事を少しばかり本気で思う。
初めて彼の部屋に入った時、台所だけがやけに生活観のある風情であったから自炊をするのだろうと思ってはいたが此処までの腕だとは想像だにしない。三日の謹慎中は彼自身、料理を出来るような状態でも無く、腕前は未知数。保存食を持って来てくれた二日後に再び訪れた時、華奢な手が真新しい弁当箱を差し出してくれた時には失礼を承知で思わず衝撃の稲妻を背負ったものである。――――嗚呼、本当に、これが毎日食えるなら一生此処にいてもいいかもしれない。ついでにシックザールが計画を諦めてくれれば万々歳。世界の脅威は当分、アラガミだけで済む。
冗談めかした思考で米を飲み込んだ男はそれでも、現実的な思考だけは捨てていなかった。
「成程な。ついにソーマにもばれたか。まあ、どうせお互い、それと無く気付いてたんだろうからばれたって言うには語弊があるんだろうが」
実際、アラガミという種族は同族の気配にとても聡い。理由の一つとして挙げられるのは、元より備わる感覚鋭さであろう。聴覚を始め、視覚、嗅覚、おおよそ、危機管理に不可欠な感覚器全てが人間より遥かに鋭い。数キロ先で砂利を踏む擦れた音、遠くの瓦礫に紛れて動く薄い影、風に運ばれるにおいを嗅ぎ分ける能力の高さ。半分なりともアラガミになってから気付いたというのは何とも皮肉な話だが、これでは人間が悉く奴等に屠られる訳である。そもそもの土台が違い過ぎるのだ。加えて、アラガミ同士でしか感知できない感覚というものも存在するらしい。これは未だに理解し切れないものだが、他のアラガミ、例えるならばセンカが温室に近づく時、直感的に彼が来たと気付く事がある。細胞が反応する、と言うべきか。他に表現する言葉を見つけられない感覚に、死に掛けて妙な超能力にでも目覚めたのかと首を傾げた事も少なくない。
まあ、今となっては便利なものとして割り切っているし、実際、そう害のある能力でもない。寧ろ、逸早く彼の気配を感知できるのは自分にとって喜ばしい事だと、恋は盲目を地で行くリンドウは暢気に構えているのだけれど。
しかし、ソーマが自分から己自身の事について切り出すなど、珍しい事もあるものである。もっとも、それも相手がセンカだからこそだろう。そう思えば、妙な不安に胸が鈍い疼きを訴える。
「で、サクヤとアリサはこそこそ動いていて、コウタは見た目、いつも通り。シオはソーマによれば、駄々っ子で…お前は特務の帰りに俺と秘密の逢瀬、か。見事にばらばらだな」
米粒一つ残さず綺麗に平らげた弁当箱の蓋をぱたりと閉めて締め括る彼にセンカは眉尻を下げて俯いた。
「…申し訳ありません…統率など命じられた事が無かったので…」
言い訳だ。言葉にした瞬間にも、そう脳裏で己を罵るが、実際、命令されるばかりの立場にあった自分が突然、統率する側に回るなど思いもしない。明らかにシックザール本人の思惑を部隊に反映させる為の配役だろう。本格的に動き出そうとしている証拠でもある素性の知れない新人の隊長就任が、計画の異分子になろうとしている第一部隊にとって好ましいものではないのは想像するまでもない事だ。その状況を作り出しているのが他でもない、中途半端な反旗を翻している自分だとは、何とも皮肉な話だと鈍く痛む胸を抱える銀色は黙して瞬いた。最善を模索するならば、このまま支部に帰らず、乾ききった世界の片隅でのたれ死んでしまう方がいいのだろう。
疲れからか、艶を鈍らせた花弁から零れた小さな溜め息を耳聡く拾い上げたリンドウが笑みを浮かべて覗き込むように顔を寄せた。
「おいおい勘違いするな。別に怒ってるんでも、嫌味を言ったんでもない。……ただ、あいつらも、もうちょっと周りに目をやれないもんか、と思っただけだ。ほい、ごちそうさん」
「?お粗末様です。…皆さんには十分、お気遣い戴いていますが…?」
怪訝な顔で彼が差し出す両手に弁当箱を返し、けれど、疑問自体には口を噤んだ男は苦笑だけを浮かべて返す。
隊長職というものは完璧な人間が担う職ではない。ただ、他より多少、信頼されていて、使える人間を統率役に据えているだけで、実際は平隊員とそう変わりないのだ。だから、現場にも出るし、雑用だってこなす。少し違うのは部下の面倒を見なければならない事と書類業務が増えるくらい。隊長になったからといって何が変わる訳でも、何か変えられる訳でもない。人は人だ。根本を変える事は無い。リンドウとて、隊長になったばかりの頃は重責に顔を強張らせた事もあった。そういう時こそ、仲間の存在というのは殊更、重要になってくる。――――頼られるばかりではない、上手く頼る事も隊長として必要な資質の一つなのだ。
しかし、今の報告を聞く限り、肝心の仲間が仲間の役割を果たしているとは言い難い、と、かつて第一部隊隊長を務めた彼は眉を顰める。頼れる者といえば、同じく隊長を務めた経験のあるツバキくらいのもの。共に任務に出る者の誰一人としてセンカを省みる気遣いを持つに至っていない。サクヤとアリサは大方、置き土産の対処に追われているのだろうが、それにしても隊長の重責を突然担わされた少年に気遣いも出来ぬ程忙しい訳では無いだろうに。コウタとソーマは既に自分の事で手が一杯なのが丸分かりだ。未熟な事この上ない。
自分が今、此処で生きていなければ、この華奢な銀色はたった一人で押し潰されそうな圧迫感に耐えていたのだろう。何も言わず、何も言えず、押し黙ったまま、只管に、目を閉じて、数多の痛みを飲み込んで。
愛しい人に頼られる嬉しさと、他に頼る岸を持たない彼への憐憫とを鍋の中の調味料のように掻き混ぜたリンドウの瞳が徐に隣で指示を待つ幼子に向けられる。視線で語る男の意思を正確に酌んだ獣の尾がぴん、と天を指した。
「レンギョウ、例のアレを持ってきてくれ」
言われるが早いが、返事一つで軽やかに噴水の縁から飛んで駆けて行った小さな獣が茂みに潜って行き、そうして葉擦れの音が遠ざかった後に舞い降りる静寂に残されるのは、二人の人型。最早、人間とは形容し難い生き物達を陽光が優しく包む。
ことりと小首を傾げた銀糸がふわり燐光を散らし、舞い踊る欠片が水の飛沫と遊ぶ姿は幻想の語りのようだ。
「…先輩…?何を所望されたのですか?」
風に舞っては儚く消える銀の光のいくつかが柔らかな陽の光を鈍く弾く異形の右腕に触れ、溶けて行くくすぐったさを感じながら、長い睫毛を瞬かせた白藍を受け止めたリンドウは彼の頬にかかった銀糸を鋭い漆黒の爪の先で除けてやる。白い頬に、傷がつかぬよう、そっと、そっと。緩む頬が浮かべるのは甘やかな微笑。
「頑張りすぎてお疲れの御姫様にちょっとしたプレゼントだ。…そうだな、俺がいいって言うまで目、閉じてろよ」
言われて、指示通りにゆるりと目を閉じる白雪の顔色はお世辞にも良くは無くて。彼の視界から完全に己が締め出された事を確認した男は浮かべた微笑に少しの痛ましさを交えた。――――白い頬は雪より青く、新雪に舞い落ちた瑞々しい花弁のようであった唇は、今は少し萎れてしまったようにかさついて見える。目の下に薄らとあるのは紛れも無い隈の痕。愛らしい面に残る痛々しい疲労の痕跡が胸を締め付けて止まない。
これが己の齎した物であったなら、不謹慎な喜びを抱きもしただろうに、今、目に映る物はただ腹立たしいばかりだ。その場に自分がいたなら、抱き締めて、心配無いと囁く事も出来ただろうか。唇を噛みながら思えど、現実は離れた同じ空の下。本来ならば、こうして会う事すら許されない確かな認識の戒めが触れようとする指を鈍らせる。躊躇う度に焦るのは、やはり白雪を欲するこの胸が愚かな熱を上げ続けているからだろう。
細かな水の飛沫を頬に受ける彼の、無防備な唇の隙間が誘う色香。何処かでこの浅はかな想いに信を置いている彼は湧き上がる熱情とそれに伴う性への欲求を抑えきれなくなった獣が、脆い理性の鎖を引き千切り、柔らかな肢体を喰らい尽す事など想像もしないに違いない。そうでなければ、どうして頻りに愛を叫ぶ男を前に疑いも無く素直に瞼を閉ざす事が出来ようか。試すにしても悪戯が過ぎる。狙っているならば、襲ってやるものを、そうでないのは一目瞭然で、近づけば、返って来るのはツバキから密命を受けて親を守る幼子の容赦ない頭突きか、白い両手で盾を作って逃げてしまう銀色のつれない態度。全く、これは何の苛めだろう。一度、唇に触れれば、そのまま貪って窒息させてしまいそうな自覚すらあるというのに、最も警戒して欲しい相手は甘い香りで情を煽って来る始末。此処まで耐えている鉄の理性を褒めて欲しいくらいだ。
風に撫でられ、再び頬に星を滑らせながら影を落とした銀糸を、嗚呼、美しく思う。
潤いを奪われてしまった彼の疲れを、少しでも癒してやれれば良い。零れそうな睦言を微笑に変えたリンドウの耳に、石畳を掻く爪音が届く。巡らせた麹塵で捉える視界に器用に花を咥えた獣が弾むように気合を入れて走ってくるのが見えて、彼は思わず噴出しそうになるのを軽く堪えた。
中々、良い走り方だ。どうやら、レンギョウもセンカの思わしくない状態を心配していたらしい。
「がうっ」
「おう、おかえり。ありがとな…っと、何だ。これも持って来ちまったのか…」
噴水の縁に飛び乗った仔の頭を撫でてやり、差し出した手に落とされたのは――――二輪。目的の白と、その傍らに咲いていた筈の紫。前者は確かにセンカに贈ろうと二人で顔を突き合わせて相談した代物だが、後者は別だ。見た所、白い花同様、ぷっちりと丁度良い所で茎を切られたそれは間違えて摘んで来たようでもない。おまけのつもりで摘んで来たのだろう。好きな物が沢山あればもっと喜んでくれるかもしれない。そんな、子供の思考。
まあ、良いか。彼が喜んでくれる要素は多いに越した事は無い。愛しい人を待たせている手前、思考を素早く切り上げたリンドウがまた一つ、笑って幼子の頭を撫でてやれば、ぐるる。甘えた声が水飛沫の清かな音に紛れる。
「さて、と。まだ目を開けるなよ?もうちょっとだ」
労いもそこそこに、未だ、律儀に言いつけを守る瞑目したままのセンカに向き直り、花を携えた男は動き出した。
手を伸ばし、右の米神から触れる月の色。触れられたと気付いた瞬間、肩を強張らせた銀色の目元を数度、優しく撫でる指で落ち着かせ、さらり、零れて星を撒く銀糸を清流を梳くように流す。無粋な手袋を纏わない指の間を滑る感触は絹糸の如く。布に滲んだ墨のように白い肌を辿る指先から全身を侵食して行くのは、広がるにつれ己の抱く恋情へと姿を変える暖かな彼の体温に他ならない。
愛しい。改めて思う。沸き起こる歓喜に震え、密かに力が籠もる無骨な指を沿わせるだけで、この繊細な珠玉の雪細工は崩れてしまいそうだ。それが変容した右手なら尚更の事。そうならぬよう、殊更、緩やかに、柔らかく触れ、男は黒い指先で白を一輪、手に取った。陽光を煌きに変えながら指から零れる髪に挿し込み、身を寄せて留まり具合を確認する。
眺めたその出来栄えは想像以上と言っていい。如何に芸術に疎い者であろうと、これには無駄な評論より先に感嘆を零すだろう。
満足気に頷いたリンドウが身体を離すと同時、さわわと木々が騒いだ。
「よし。いいぞ。目を開けて、見てみろ」
合図でゆっくりと開いた白藍が小鳥の羽ばたきのように長い睫毛を羽ばたかせ、次いで、緩慢な動作で持ち上げた指で己の右の髪に触れる。突然の事でも、取ってはならないと理解しているのだろう。戸惑いながらも、ふわふわと形だけを確かめるように柔らかく触れ、肌を撫でる天鵝絨の感触に花だと理解したらしいセンカは飛沫で揺らめく噴水を覗き込んだ。
ゆらりゆらゆら揺れる鏡代わりの水面に映る己の顔。その髪に、緑の葉を二枚程残した見慣れぬ白が咲いている。視線で形を辿り、答えに至った白藍が僅かに見開いた。
データベースか、或いは、サカキの持つ書の中でした見た事の無いその花は既に絶滅して久しい花であった筈だ。以前、此処で見つけた竜胆のように、もう種も遺伝子の欠片すらも残っていない植物。けれど、センカにとっては決して記憶から消える事の無い花でもあった。
知っている。どうして此処にあるのか。まだ、生きていたのか。まるで、まだ生きている自分のように。思い、雪に色を添える薄桃の花弁が呟く、波打つ白い花弁が幾重にも重なるその花の名は、
「…鳳仙花…」
見た事の無い、よく知っている花。見てみたいと思った事がある花の一つ。
覗き込むあまり、水に口付けを施しそうな細い身体を逞しい左腕で掬い上げるように連れ戻したリンドウが銀糸に一際、映える己の瞳と同じ色の葉を眺めて口を開いた。
「何だ?知ってたのか?」
問う声音に揺れた銀髪が光を散らす。
「いいえ…データベースで見ただけですが…これを何処で?」
「ん?まあ、色々あってな。レンギョウが見つけて来たんだ」
ついでにこれもおまけだ。差し出された紫に再び、見開く白藍の双眸。竜胆だ。受け取るよう促されたそれを透けるような白い指先で包み、離れていく黒く、鋭い爪を見送った彼は茎に傷一つついていない花に唇を寄せた。喜びが頬に上り、仄かな熱を持って顔が緩む。だが、それも刹那の事。
此処に来ればこの花をもう一度見る事も叶うとは思っていたが、まさか、彼自身からこれを受け取ろうとは。分かってやっているなら性質が悪い。先の会話から目的はこの花ではなく、髪を飾る鳳仙花なのだろうけれど、それにしても作為を疑うこれが運命や因果と呼ばれるものだと言うのなら、世界は全てが悪戯な酔狂で作られているのだろう。
美しい白い花が微風に撫でられ、無機質な銀髪に息吹を吹き込み、清楚な色彩を与える。そよぐ葉にちらり、煌く光の筋がかかる様は闇夜の森に月光が差し込む如く。――――声が、聞こえる。あれは昔の声。
人間の形を残したままの男の腕に白魚をかけ、覗き込んだ水面に映る己の姿をぼんやり眺めたセンカは注ぐ視線で戸惑いを問う麹塵に小さく囀った。
「逃がしては、戴けませんか?」
「逃がせるなら、今、お前に口付けの一つもするさ」
言外に話題の転換を拒絶されて息を止めた銀色の白藍が彷徨う。
彼の機嫌を損ねた訳ではない。純粋に、知りたいと思っただけの話なのだろう。強要しない声色に滲む優しさが詰問ではない事を示している。半ば脅迫に似た口付けの予告も戯れの感が強い。本当に嫌がる事だけは決してしない彼だから、無理矢理にでも話を逸らせば流されてくれるだろうが、これはそうしなければならない程、重要でも深刻なものでもない。彼にとって何の益にもならない、酷く個人的なものだ。
そこまで考えて、ふと、手元の紫を眺めた彼は思い至る。――――嗚呼、そういえば、この人はその「何の益にもならない酷く個人的なもの」を知りたがる人だった。違う意味で重みを増す溜め息。
茫洋と水面に揺れる色の優れない己の顔と只管に言葉を待つ男の端整な面を見比べたセンカの唇が動いたのは、伏せた睫毛が控えめに二度、瞬いた後だった。
「……僕は、鳳仙花なのだそうです」
辿るのは、昔日。観察者を自称する学者と、出来損ないの人工物が、初めて視線を合わせた日。鮮明に記憶に残る彼の声が、脳裏で響き渡る。
「初めて博士にお会いした日に、そう言われました」
滔々と語るセンカの視線を追い、水面の月に咲く花を眺めて怪訝な表情を浮かべた男は麹塵を細めながら、飾られた葉に引っかかった銀糸を指先で優しく解いて口を噤んだ。耳を澄ませる気配は、あえてそう勘付かせているのだろう。そうして、先を促す意思を酌み取れるくらいには近い距離にあるまでになってしまったと、既に互いが知っていた。
吹き抜ける風に囁く、木の葉の奏で。
「この花自体、既に公式には絶滅種として登録されています。データベースにも記述と数枚の写真があるだけです。ですが、この花の果実は触れると弾けて種を遠くへ飛ばすと博士に伺いました。…それが、僕のようだと、この名を頂く時に」
思えば、彼は当初から自分の閉鎖的な性質を見抜いていたのかもしれない。無機物だというだけでは説明しきれない、個の性質。フェンリルに所属してからの振る舞いは彼の推論を肯定する良い材料になったに違いない。何食わぬ顔で咲き、揺れながら、けれど、触れた瞬間にも周囲を拒絶して己を消してしまう。触れて来ようとするリンドウへの拒絶は果実が弾ける様そのものだ。
サカキがそれを本当に理解していたか否かは定かではないが、ある種、名が体を表すに至ったのは事実である。
微風に靡く月の色。浮かべた微笑が透明な天井から注ぐ光の紗に包まれ、眩しげに瞳を細める男の傍で淡く、美しく、咲き誇る。
「鳳仙花は、博士が最初に『僕』に与えた、個を表すものです」
竜胆の花に唇を寄せ、閉じた瞼の闇の先。声が、聞こえる。あれは昔の声。
君は鳳仙花のようだね。何気なく存在しているのに、触れれば確かに拒絶をする。まさに君そのものだと思わないかい?…ふむ、成る程。そうか。ホウセンカ、か…。うん。いいね。センカ…センカにしよう。君の名前だ。呼ぶ名前が無いと面倒だろう?私は面倒な事があまり好きではなくてね。ホウセンカでは長いから、少し縮めて「センカ」だ。今日から君はセンカだよ。さあ、ついておいで。君に生きる術を教えてあげよう。覚えておきなさい。知識は武器だ。
そう言って傷だらけの、綺麗とは言い難い手を引いた存外、硬くて大きな手の温度を覚えている。
あの日、与えられたそれは、触れる事を厭う花の名。――――ただ息をするだけのような、何気無くも、衝撃的なあの瞬間、確かに、初めて「センカ」がこの世界に形を作ったのだ。
そうして、それは今も続いている。
花言葉の通りに、私に触れないで、と静かに荒廃した世界に叫びながら。
当家の新型の名前が固定になってる、技術的な理由以外の理由がこれだったりします。…どっちにしろ、どりぃむ機能つけるのが面倒臭かったというのが一番ですが(コラ)
という訳で、新型のお名前のお話。リンドウさんが実に良い思いをしていて以下略。……本当に最近、不憫度がガッタガタに低くて哀れな隊長を期待して下さっている方に申し訳ないですね(ぇええ)ご夫婦の密着度半端無い。
新型にとって名前というのはそういう意味で少し特別な印象があるものです。名前を呼ぶ事によって個体認識がより深まり、明確化する、というか。そこに一種の怖れを抱いている子でもあるので、序盤では誰の名前も呼ばないという暴挙に出ていました。最強にKYでありKYな(訳:空気が読めなくて、且つ、空気が読める)コウタお兄ちゃんにあっさりぶち壊されましたがね!!そんな訳で、自分の「名前」も何となく、嬉しいやら興味があるやら居心地悪いやら。そんな種明かしをリンドウさん相手にしてしまいました。
リンドウさんはリンドウさんで第一部隊の現状をちょっと嘆いてみたり、毛玉と連携してみたり、それで嫁に喜んでもらえてちょうご満悦だったり。ついでに過去(?)をちょっとだけ聞けて更に大満足でうっきうきにやにやです。しかも、最近の嫁は抱き締めても甘受してくれるので旦那的には嬉しくてたまらない。お手製弁当も一気にボルテージ上がっちゃうくらい狂喜乱舞して毛玉とわーわーしちゃう。
ちなみに、今回の見所は冒頭の唐揚げを取り合う父と子供です。
ええ、誰が何と言おうと!!(ちょ、違うだろ!)
2012/09/09 |