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 呼んでいる。遠く、近く、壁の向こうから。

彼方からの呼び声

 呼び声の如く寄せては返す潮騒に刹那、意識を浸食されかけながら、センカは食事を終えたシオが茜の空を仰ぐ姿を目を細めて眺めた。
 サカキに命じられ、サクヤ、アリサと共に彼女を空母へ連れ出したのはもう日も傾きかけた頃の事だ。白い陽光が黄色味を増して来た頃の出撃には、身体の不調も伴い、多少、渋い顔をして見せたものの、シオの腹具合がかかっているとあっては否とは言えない。何より、今の彼女は酷く不安定な状態にある。何がきっかけに暴走するとも知れない今、彼女の不満や不安を煽るような真似は決して出来なかった。
 嫌な胸騒ぎは潮の音の所為だろうか。それとも、その向こうに見えるはりぼての人類の希望の所為だろうか。いつものように抱き締めた神機に頬を寄せ、溜め息をつくセンカの胸の内に一つ、黒点が落ちる。白紙に落ちた墨が支配の場を広げるように、緩やかに広がり、やがて呼吸を締め付ける不安。まるで、神経毒のようだ。
「大きいよね」
 岸壁へ進み出るサクヤの翳った背が揺れる。続く、アリサの背。残されるのは銀色。
「エイジス計画の要、人類最後の望み…エイジス島」
 まさか、それが巨大な謀であるとは誰も夢にも思わない。この場にいる、センカ以外の全ての者がそれを信じていた。それが欠片も残さず崩れ去った今、海上の孤島に鎮座する半球状の覆いに隠された物が何であるのか知る者はいないのだ。エイジス計画の発展系であるのか、或いは、人類全てを葬り去るものなのか。漠然とした不安が広がったとして、何ら不思議ではない。前者であったとして、リンドウを葬り去ったシックザールのやる事だ。全てを救えるような妙案であるとは思えない。否。彼にとっては妙案か。それを止めようとしたリンドウとは、そう、価値観が違っただけの話。シックザールにとっては最も良い方法で、リンドウにとっては違ったと、それだけの事なのだろう。
 そして、彼の価値観は、サクヤやアリサの価値観とも壮絶な相違を見せている。
 リンドウの手記を見た日から互いに何も言わぬまま数日が過ぎたが、二人がそれぞれ水面下で動き回っている事をセンカは知っている。互いに気付かれぬように、気を張りながら、ひっそりと深い暗闇に手を伸ばそうとする彼女達を、センカだけが外野からそっと眺めているのだから、傍からみれば、なんとも滑稽な光景だ。しかし、いつまで続くかも分からない化かし合いが、いつまでも続くかと言えば無論、答えは否である。睨み合いも、化かし合いも、そう遠くない内に終わるだろう。センカの端末に昼夜問わずしつこく掛けてくるシックザールの焦りは明らかだ。状況は切迫していないとはいえ、時は迫っている。そろそろ強硬手段に出てきてもおかしくは無い。
 脳裏に描く、蛇の眼差し。件の男の視線を思い出し、彼は抱え直した神機をきつく抱き締めて、ふと大人しく海風に吹かれるシオを見やった。他意は無い。ただ、時間が合った。それだけの、話だった。動き出したのは白。
「…シオ?どうかしたの?」
 ふんわりと、徐に立ち上がった少女の纏う衣の裾が靡く。重力を感じさせない足取りで埠頭の先端まで歩を進める彼女には同じく白い姿を仰いだサクヤの言葉も届いていないのか、彼方を眺めているばかりだ。緩やかにさざめく海の――――海の、向こう?同じ視線を辿り、先に見つけたものを認識した瞬間、センカは青褪めた。
 視線の先。海の向こう。エイジス。違う。その向こうだ。聞こえる。何故、今まで気にせずにいられた?彼女は、「エイジスを見ている」。まずい。
 思い、同時に、津波の如く強烈な衝撃を伴って自我を暴食し始める、急激な意識の侵食が襲う。遅れて響き出す、脳内の警鐘。遅い。遅すぎる。シックザールが確認していたのはこれだったのだ。どうして気付かなかったのか。あの人が手駒の動向など逐一、気に留める筈が無いというのに!
 ぐらり。回りかける世界を荒い呼吸で繋ぎ留める。こちらに背を向けているサクヤとアリサはまだ、この身の変化に気付いていない。気付かれる前に何とかしなくては。奇妙な早鐘を打つ鼓動を抱えたセンカの白い手が、爪まで白く染めて握られる。
 知っている。この感覚。覚えている。まだ力を制御し切れない頃に幾度も陥った。霞む意識。耳鳴り。内側から湧き上がる衝動。己が発する声すら喰らい尽くされそうな脳内で銅鑼のように鳴り響き、襲う、身体が自我の支配下から剥奪される脱力感。駄目だ。駄目だ。駄目だ。堕ちるな。起きろ。意識を保て。シオはきっと耐えられない。暴走してしまう。それは、好ましくない。シックザールに気付かれてしまう。起きろ。起きろ。意識を、自我を保て。
 己の意識に向け、胸中から叫ぶセンカが顔を上げた、刹那。まずい、失敗した、と、思う間もない。暁に焼ける空と、翻る白の衣。その中で、振り向いた彼女と、

目が、合った。

 全てを呑む琥珀の双眸。白い、白い、肌。その肌に青白く輝く文様を浮かび上がらせ、瞬きも忘れたシオが笑う。――――暴走だと気付いたのはサクヤが先。
「シオ…貴方…!」
 明らかに異常な様に、息を呑む。陶器の笑みを浮かべるシオの虚ろな瞳は快活な彼女の印象からは程遠く、焦点の定まらない金色はとろりとした硝子玉のようだ。全身に広がる文様が青い光を放つ様は、恰も薄闇に落ちようとする暁の世界で埠頭の先に月が昇るが如く。見た事も無い、異様な光景。彼女の意識を喰らう勢いを増すかのように、文様が光を増す。
「ヨンデル…タベタイ…タベタイッテ、ヨンデルヨ」
 茜に落ちるうわ言を、果たして紡ぐ彼女自身は理解しているだろうか。耳をいくら澄ませど、サクヤ達「人間」には海原の囁きしか聞こえない。呼び声など何処から聞こえるというのか。分からない。兎に角、今、理解出来るのはこの状況が彼女にとって好ましくない事だけだ。
 慌てて呼び戻そうと口を開きかけたサクヤを、しかし、不穏な響きが遮った。
「オイシソウ」
 海風が撫で行く背が、冷える。聞き違ったか。思い、直に己を否定する。美味しそう。そう言った。恍惚とした表情で、仕草で、海の向こうを眺めるシオの、それは確かな捕食の兆候。アラガミの本能の現われだ。傍に佇む人間にその意識が向けられていないのは一重に、高次の生物へと進化を遂げた彼女の捕食対象枠から外れているからに過ぎない。では、彼女は何に対しての捕食欲を見せているというのか。見詰める先にあるのは、鋼鉄の巨壁、エイジスだけだ。
 連れ戻さねば。青褪めたサクヤが飲み込んだ言葉を再び、唇に昇らせるより早く、茜の炎に染まる白い髪を散らし、彼女は振り向いた。
 逆行に翳り、うっとりと笑う金色が捉える色は、白雪の銀。
「センカモ、イッショニタベヨ?ヨンデルヨ」
「え?」
 センカ。何故、そこでセンカを呼ぶのだろう。シオはセンカによく懐いている。それは確かだ。恰も子が母に懐くように。ぬくもりを求めるように。シオはセンカの傍に居たがる。だが、間違えてはいけない。センカは人間だ。間違ってもアラガミではない。アラガミであるシオがいくら生活形態を共にしようと望んでも、根本から違う種族は存在維持の部分で交わる事は無いのだ。それを、何故、彼女は真っ直ぐに彼を見詰め、さも当たり前のように呼ぶのだろう。
 思考に身を浸した僅かな間、それがいけなかった。――――傾いだ白い肢体が埠頭から離れ、中空に踊る。
「シオっ!!」
 刹那の浮遊感が夢の如く消え去り、続く、淡く橙の色を移した白色が眼下の海へ飲まれる音。飛び込んだ。そう認識したのは一拍置いてからだった。
「シオっ!?シオ!戻ってらっしゃい!シオ!」
 何が起きたのか、見当もつかない。全てが突然の闇の中だ。わからない。彼女に何があった。最近、様子が芳しく無い事は皆気付いていたが、それでも、言動や行動はやはり彼女らしさを損なわないもので、あのような奇行に及ぶなどおおよそ彼女らしくも無いし、こちらも想像だにしない。あの体中に現れた青い文様も気になる。アラガミ独特の何かだろうか?わからない。一体、何だというのだろう。先から疑問ばかりが渦巻く頭の中は既に許容量を超えてしまっている。
「シオ!!どこにいるの!?シ…」
「サクヤさん!!」
 彼女の影を探すべく海を覗き込もうとしたサクヤを呼び止める声は、アリサだ。切迫した響きが空母に渡り、強い声音に反射神経を捕らわれたサクヤは身体を捻って振り向いた先の光景に、再度、朱の瞳を見開いた。咄嗟に、何、と紡ごうとした喉が詰まり、呻くような音だけが洩れる。
 アリサが押さえているのだ。――――センカを。
 顔を真っ直ぐ海原へ向け、輝く暁の向こうを眺める空ろな硝子の白藍は何も映していない。一切の表情が抜け落ちた白い面に降りる微かな影は、それすらも常より朧げに見える。ふらりと雲を踏むように軽やかに歩き出そうとするその痩身には見た目以上の力が込められているのか、背後から羽交い絞めにしながら銀色の歩みを止めるアリサの顔は酷く歪み、最早、苦痛を堪える時のそれだ。懸命に引き止める腕が細かに痙攣している。救いはセンカがただ前へ進もうとしているだけで、暴れていない事だろう。しかし、それも時間が経てば痺れが切れるかもしれない。
 背後に気をやり、耳を澄ませる。返るのは穏やかな漣の調べ。サクヤは思わず奥歯を噛んで、艶やかな唇の端から呻きを洩らした。
 駄目だ。何も聞こえない。完全にシオを見失ってしまった。今からでは間に合わないだろう。こうなれば、一度、支部へ戻り、サカキの指示を仰ぐのが上策だ。これ以上、此処に留まっていたとて、夜の帳が落ちた空母の冷えた海風に晒されながら、散歩がてらにやって来たアラガミと一戦交えるのが関の山。態々、命を縮めるような行為は好ましくない。何より、シオと同じく明らかに異常な状態に陥っているセンカをこのままにして置けるか。答えは明らかに否だ。彼まで失ってはあの時の二の舞だ。
 逡巡は一瞬。ヒールを甲高く鳴らし、忙しなくコンクリートを蹴った彼女は銀色の行く手を阻むように前から彼の肩を掴んだ。途端、前進を望む痩身の重みがぎしりと両腕にかかる。
 女二人といえど、神機使いに押さえ込まれ、それでも靴底で埃を鳴らす力の強さには瞠目するより他無い。P53因子を投与されている身であったとして、神機使い二人を押し退けるまでの力が出せるだろうか。優美な仕草の細腕で数人を薙ぎ払うなど、まさか、サリエルでもあるまいに。
 また靴底がざらついた音を立てて後退し、生半可な力では対峙し切れないと判断したサクヤの腕に力が篭る。加減無く掴まれた腕は痛みを訴える程だろうに、漸進するセンカは黙したまま。彼の肩越しに見やったアリサに向けて張り上げた声が近距離にも関わらず思いの外大きく紡がれたのは抑え切れない焦燥からだったに違いない。
「アリサ、何があったの!?」
「わ、わかりません!急に海に向かい始めて…!呼びかけても応えてくれないんです!」
 サクヤと共にエイジスを眺めながら背後に感じていた彼の気配が動いたのは恐らく、シオがおかしくなった辺りからだったとアリサは思う。不意にふらついたらしい大気の揺らぎを感じ、振り向いた時にはこうなっていた。呼びかけにも反応は皆無。直後に突如、前進し始めたセンカがふらりとアリサを追い越して海へ向かい、漸くその異常さに気付いた彼女が彼を捕まえたのはシオが飛び込んだ直後だった。
 じゃりり。再び、砂埃が耳障りな悲鳴を上げる。
 一定の調子でかかる強い力が衰える気配は無い。混乱も伴い、出遅れた静止の行動は明らかな後手に回っている。不利だ。思う傍から、後退する靴底。気絶させようにも二人が二人とも両手を塞がれている。少しでも力を緩めれば包囲網を容易く解かれてしまうだろう。素早い彼の事、一度、逃がせば捕まえるのは困難だ。打開策は一つ。彼を正気に戻すより他に方法は無い。
 掴み直す肩。細い。折れそうだ。でも、込めた力を緩める訳には行かない。
「センカっ!しっかりして!!私の声を聞いて!!」
 己ですら耳が痛む声量を上げ、アリサから外した視線を真っ直ぐに硝子の白藍に向けた彼女は――――今一度、瞠目した。

 見えるのは、青。肌に浮かぶ、青褪めた月の光。

「いか、なきゃ…よんでる……たべたいって、よんでる…」
 ぼんやりと、誰かと同じ言葉を紡ぐ愛らしい唇。清廉な音。靡く銀髪。散る燐光。上げた顔の眼窩に嵌る硝子の双眸。真白の肌。その滑らかな雪の肌に、記憶に新しすぎる異常な光が走っている。着込んだ襟から覗く首にも浮かぶ文様は服の中へ潜り、全身に及んでいるのだろう。神機を抱く指にすら、青白いそれが光り輝いている。
 見た事がある症状、というには鮮明過ぎる記憶の再現だ。そんな、まさか。
「……センカ…っ…貴方、まさか…!?」
 元より、人間離れした子だとは思っていたが、シオが「そういう意味」で呼んだとは。思い、サクヤはすぐさま胸中で首を振った。緩みかけた力を、再び入れ直す。否。違う。在り得ない。だって、この子は「人間」だ。アラガミと自分の境界線に悩んでいたとしても、彼は人間以外の何物でもない筈だ。もしも、真実、そうだったとして、それを今考えるのは相応しい行動ではない。
 センカを背後から捕らえるアリサの力が刹那、緩んだのを感じ取り、朱色が鋭く細まる。
「アリサ、考えるのは後よ!放しちゃ駄目!」
「は、はいっ!」
 じゃり。鳴る、靴音。そうだ。考えるのは後で良い。シオを探すにしても、センカに酷く懐いていた彼女だ。彼が一声かければあっさり帰ってくるかもしれない。その為に、まずは彼を連れて帰らねばならないのだ。考えろ。考えろ。どんなものであろうと、彼の気を惹けるものを。
 記憶の海を探りつつ、焦りに焼かれる二人がそ知らぬ顔の茜空の下で声を張り上げる姿は実に滑稽だった。一つ覚えの文句を喚き立て、騒ぎ、そんな自分を嗤う嘲笑すら、湧き上がる焦燥が焼き尽くす。代わりに足掻きを見下す空が嗤っているようだ。
「センカ、正気に戻りなさい!誰も貴方を呼んでなんか無いわ!」
「そうです!何にも聞こえないですよ!!しっかりして下さい!センカさんがいなくなったら皆、悲しみます!」
「アリサの言う通りよ。リンドウだってそんな事望んでない!」

 瞬間、滅茶苦茶な叫びの中で一つ。

「……せんぱい……?」

 銀色が、反応した。

 途端、止んだ抵抗につんのめりそうになる身体を咄嗟に踏ん張ったヒールの爪先で堪える。――――反応した。喋った。呼び声以外の事を。せんぱい。先輩。リンドウだ。この子が敬称だけで呼ぶのはリンドウ以外に在り得ない。リンドウ。リンドウ。この子の中に深く居座る男の名。呼び戻せる。いける。彼を、センカを、呼び戻せる!
 呆然と佇むに留まったセンカの細い両肩を掴み、朱色は虚ろな瞳と視線を合わせた。
「…せんぱい…せんぱい、が…」
「そう。そうよ。貴方がアナグラに帰って来なかったらリンドウは絶対に悲しむわ。悲しくて悲しくて、仕事をしなくなっちゃうかも。そうなったらセンカも困るでしょう?あの人を怒ってあげなくちゃいけないわ。だから、ね?帰りましょう?リンドウが待ってるわ」
 これではまるで、彼の人が生きているかのような言い方だ。嘘に気付いたアリサの疑うような視線に、けれど、サクヤは知らぬふりを決め込んだ。
 酷い嘘だと、気付いている。嘘も方便というには冗談では済まない悪趣味な嘘。それでも、使えるものは使わねば得体の知れない呼び声から彼を取り戻す事など不可能だ。この際、リンドウを想う彼の心を利用してでも、連れ戻す。綻びを生む躊躇いは必要ない。
 ふわり、ふわふわ。銀の燐光を振り撒きながら、硝子を瞬かせ、辺りを見回すセンカの唇から、ぽつり、ぽつり、聞こえる朧な声音。
「せんぱい、せんぱい…どこ……せんぱい…」
 呟きに、嗚呼、まだ探している。思ったのはサクヤだけではあるまい。緩んだ拘束の手の中、首を右へ、左へ、何度も振り、漆黒の長身を探す虚ろな白藍が不安に揺れている。頻りに名を呼ぶ姿は消えた恋人を探すようだ。今にも泣きそうな顔の彼は、己がそんな顔で彼を求めている事も知らないだろう。せんぱい、せんぱい、どこ、せんぱい、どこ。覚えたばかりの赤子の如くセンカは酷くゆっくりとした口調で繰り返す。せんぱい、どこ、どこ。頼りない肩の向こうで耐え兼ねたアリサが顔を伏せるのが見えて、サクヤが贖罪のように、落ち着かない銀色の髪を撫でてやろうと、した、刹那。
「せんぱ、い…シオ…」
「センカ!?」
 不意に力の抜けた人形に似た動作でふらり、銀色が前のめりに傾ぐ。手を伸ばせたのは鍛えられた反射神経故だろうか。倒れ行く身体を抱き留め、サクヤはそのままずるずると共にコンクリートに膝をついた。軽い痩身を地面に横たえれば、薄く闇を交えた斜陽に照らされる青褪めた顔。…良くない。彼の「何か」に負担がかかった証拠だ。今度は、今度は何が起こった?
「センカさん!?ねえ、どうしたんですか!?センカさん!!……サクヤさん、どうしたら…!?」
 震えるアリサの声に、口中で、わからないわ、と返したサクヤの手が震える。
 まだ血は吐いていない。そこまで酷くないのか。否。油断は出来ない。何が原因だ?まさか、リンドウの事を思い出させたのが原因だろうか。否。違う。今はそんな事を考えている場合ではない。サカキに連絡を、シオの事も、違う、それも今考える事じゃない。違う、違う、違う!兎に角、端末だ。端末を取り出さなくては。連絡と、応援を。誰に?誰でも良い。誰か、誰か!
「センカさん!センカさん…!!」
 甲高い少女の声に弾かれたように、取り落としそうな手つきで端末を取り出した女は混乱した頭とがたがた震える指先でボタンを押し、漸く他人の声を届けた小さな箱に叫んだ。――――確か、彼は今日、自分達より少し前の時間に任務に出ていた筈だ。きっともう片付けている。
 思い出せたのは、奇跡だった。
 紫の空に悲鳴が飛ぶ。

「ソーマ!今何処にいるの!?空母に来て!今すぐよ!…センカが、センカが…!!」

 お願い、助けて。


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空母でドボン事件勃発。ついでに新型さんも戦線離脱事件勃発。同時に起こってサクアリ組が大パニック。
シオさんは原作の通りとして、新型の異変については、ご存じの通り、彼自身がアラガミなので少なからず影響がある…というか、支部長製だから影響を受けたというか…何にしてもここでサクヤさん達に気づかれてしまいました。そういう意味ではサクヤさん達にはショックすぎた感じです。
次の話まで続けないと会話内容等についてのサクアリ側のアレコレを語るには足りないので保留しておきますが、とりあえず、二人は頑張った。いろんな意味で頑張った。

2013/06/27