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 こんなのあんまりだ!

友達レベル1

 無謀だ。任務内容を聞いた二人は同時にそう判断した。
 何が悲しくて新人二人でコンゴウの討伐任務に赴かねばならないのか。いくら、センカが有り得ない程強かったとしても、いくら、コウタが他の新人よりも多少、使える偵察兵だったとしても、二人が新兵なのには変わり無いのだ。
「うーあー…まじかよー…これってどんなお仕置き…寧ろ、どんだけのお仕置き…」
 笑えねぇ、笑えねぇよ。言いながら、しっかり自分の神機のチェックをしている辺り、やる気は十分に見えるコウタの悲壮な声を聞きながら、センカはぼんやりとその傍らに佇んでいた。
 その姿に、一時、文句の羅列を飲み込んだコウタの首が傾く。――――おかしい。いつもぼんやりはしているが、何処かおかしい。
 揺れる銀色は同じだ。髪型も変わっていない。身長は…自分が言うのも何だが、相変わらず低い。否、小柄と言っておくべきか。茫洋とした双眸は常と変わらぬ綺麗な空の色。怒られて泣き腫らした風でもない。ならば、何が違うのか。
 じっくり観察する茶色い目が白い頬の淡い色付きを捉えた刹那、彼は折角、丁寧にチェックしていた神機を放り出した。
「センカっ!お前、熱あるだろ!」
「…え?」
 緩やかにコウタを見る目。一見すれば、常と変わらないが、やはり少しぼんやりし過ぎている。
「ちょっとごめんな。おでこ触るぞ?」
 雪の色に煌く髪を除けて触れた滑らかな肌。ぺたりと置いた手のひらに伝わる温度は、目論んだ通りに熱かった。
 感覚的には、微熱程度だろうが、悪化させでもしたら大事だ。
「やっぱ熱あるって。リンドウさんに事情話して、また今度にしてもらおうぜ?なっ?無理は禁物だってサクヤさんも言ってたし…」
 眉を寄せて気遣うコウタに、しかし、センカは首を振った。
「問題ありません」
「いやいやいや、問題あるってば!俺は断固反対!」
「時間です」
 早くこの任務を終わらせなければ、とセンカは脳裏で言葉を続ける。熱があるからといって精々微熱。それ程騒ぎ立てるようなものでもない。まして、自分にとっては微熱もそれ以上も日常茶飯事だ。死ぬようなものでもないのだから、気にするまでもない。
 焦りを強く感じさせる気配がヘリポートへ向かう背を追ってくる。
「センカってば!そりゃあ、俺だってお前とは初めて組むから嬉しいっちゃ嬉しいけどさ、これはまずいって!」
 センカの強さについて、サクヤやリンドウから話を聞いた事があった。曰く、綺麗だと、それだけの表現。血生臭さしか感じないような任務で「綺麗」としか表現出来ない戦い方、或いは、強さとは何だろうと疑問に思っていた。
 確かに、センカ自身の容姿はかなり中性的だという事を差し引いても美しい部類に入ると思う。先の事件――あの後、かなりの間エントランスを騒がせていたようだから、あれは立派な事件だ――での、あの一瞬は忘れ得る筈も無い。ヒバリに熱を上げている筈のタツミがこっそりセンカについて聞きに来たくらいだ。それは同性をも魅了する一瞬だったのだろう。
 気配だけなら控えめに見えるセンカの放った鮮烈で妖艶な雰囲気はアナグラのトップニュースになったが、あまりに鮮烈過ぎるそれに中てられた連中が彼を今まで通り放っておいてくれるかと言えば、答えは否だった。リンドウからの処分を聞き、エントランスに戻ってきた銀色に向けられた視線の中に健全とは言い難いものを感じ取ったコウタがすぐさま駆け寄って周りを牽制したのは言うまでも無い。
 魅了する、という事は良くも悪くも、きっとそう言う事なのだと知ったのはその時だ。
 しかし、その綺麗なセンカが存外、頑固なのはきっと友達第一号である自分しか知らないのだろう、とコウタは密かに溜め息をつく。今の状態が、まさにそれだ。
 コウタが見る限り、彼はあまり身体が強い方ではないのかもしれないと思う。無論、直接、聞いた事がある訳ではないから、これは推測でしかないが、それにしても熱があるというのに構わず任務に出かけると意地を張るのは如何なものか。思えば、いつも彼は任務があれば少し青い顔をしている時でも出かけ、戻ってきてはサカキ博士を訪ねているようだった。帰還した際のあまりの顔色に、何故、他の者は気付かないのか、と不思議に思い、密かに腹を立たせたのも一度や二度ではない。
 一向に歩む速度を緩めないセンカに、いい加減、コウタも焦れてくる。ヘリポートはもう目の前だ。ばらばらと今にも飛び立たんとするヘリの爆音が鋼鉄の扉の向こうから聞こえる。今更、引き返せない。もう無理だ。赴くしかない。赴いて、兎に角、タイミング悪く現れやがったコンゴウを取っちめて、光よりも早く帰って来るしか無い!
「あーもうっ!しょーがないな!じゃあ、任務先でお前がぶっ倒れたりしたら、俺の言う事、一個聞けよ!?」
 もうやけくそだ!そう叫びながら着実に歩を進めるセンカを追い抜いてヘリポートへの扉を開け放つコウタの頭には既にコンゴウを如何に迅速に倒すかという、その一点しか無かった。

 数時間後、白銀に彩られた舞台で依然、ぶちぶち文句を言う少年の隣に佇んだセンカはこの判断を後悔する事になる。



お兄ちゃんコウタさんは新型さんのおでこに無条件でタッチ出来る存在だと思います(何)
これがリンドウさんだと問答無用で五十メートルくらい瞬時に距離をとられて且つ向こう数日間はずっと半径五メートル内に入れない日々が続くのですよ(酷すぎる)…あれ?何だかリン主長編のはずなのに…リンドウさん以外と仲が…良 い ?
というか、実際、ゲームでコウタさんと二人で仲良くコンゴウ様に挑んで来い、とか…何のSMかと思いました よ !

2010/11/05