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 これは急展開だ!全員集合!
 …で、これって何回目の会議だっけ?

黒獣と白雪についての考察

 リンドウとセンカが任務に行ったらしい。しかも、二人きりで。
 それを聞いた時、コウタは大層驚いた。何せ、コウタが知る限り、リンドウはセンカが敬遠している人物の筆頭だからだ。否、敬遠というには少々語弊がある。警戒している、が正しいか。
 ともあれ、雨宮リンドウとは絶対に二人きりにならないだろうと踏んでいた烏羽センカが、彼とデート紛いの任務に出かけたのはセンカの友人第一号を自負するコウタには一大ニュースだったのだ。
「と、言う訳で、リンドウさんから何か聞いてないですか、サクヤさん?」
「奇遇ね、私も今、君にそれを聞こうと思ってたのよ」
 エントランスの片隅。顔を突き合わせて密談する様は非常に滑稽だが、無論、大真面目な彼らは気付く筈もない。言葉こそ発していないものの、普段、そういったものに我関せずを貫くソーマまで加わっているものだからその異様さといったらなかった。
 びしり。周囲の視線を余所に、コウタの人差し指が一本立つ。
「俺が聞いた噂はこうです。昨日、エントランスに現れたリンドウさんが物凄く嬉しそうな顔で任務を請け負って、誰かを待っていた。そして、ちょっとしてからやって来たセンカと一緒に出かけて行った…しかも!帰ってきた時はもっと嬉しそう…っていうか、でれでれだったって…」
 思わず半眼になる新米偵察兵に、今度は先輩衛生兵曹長が手を上げた。
「それは私が証明出来るわ。でれでれっていうより、もう、嬉しくて堪らなくてめろめろって感じだったもの…」
 うっかり部屋の前で遭遇しちゃったのよね。遠くを眺めるサクヤに、コウタは、嗚呼、噂は本当だったのだ、と同じく遠くを眺めた。
 これで噂が噂で無くなった。それが真実だと分かったなら、次に会議の卓に上るのは二人の間に何があったのか、である。
 これまでの二人の関係を鑑みて、まさかいきなり恋仲になったとは考え難い。そもそもセンカはそういった気がまるきり無いどころか毛が逆立つ程に警戒しており、リンドウに至ってはまさかの鈍感スキルが発動していて己の恋情にすら気付いていない始末。正直、見ている方が苛々してくる。事態に気付いた第一部隊の面々がこうして雁首揃えるのも、実は初めてではない。
 そんなどうにもし難い二人が、二人きりで出かけて、悪くない雰囲気で帰ってきた。これは何か進展があったと見るべきだろう。しかし、
「…あのさぁ、本当にリンドウさん、気付いてないの?」
 横目で見た先でサクヤがふるふると黒髪を揺らして答える。
「呆れた事に、さっぱりね。どうやら、仲間に対する親愛と間違ってるみたい」
 この気にかけようは明らかに違うだろうに。普段、聡い彼が何故、こんなにもあからさまな己の恋情に鈍感なのか、永遠の謎である。弱点にしても情けない。
「センカの方はどう?気付いてるかしら?」
 サクヤの問いに、やはり、コウタも首を横に振った。
「全然。元が警戒対象だからなのか分かんないけど、モーションかけられる度に何が目的なのか見極めようとしてるみたい」
 恋愛対象からは程遠いばかりか、宿敵扱いだ。道のりは限りなく遠い。
 そもそも、センカはそういった感情には無縁のように見える。無縁、というのはつまり、機会が無いだとかそういう意味ではなく、それを理解出来ていない、という意味で無縁なのだ。
 センカにとって世界の振り分けは明確過ぎて、曖昧な部分が無いのだろうとコウタは思う。必要か、必要でないか。警戒するべきか、しないべきか。有害か、無害か。きっと、そんなものだ。恋という雲のように曖昧な感情は彼の中で分類し難いものに違いない。あえて、分類するならば、理解出来ないもの、といったところか。
 現に、極最近、友人という地位をなんとか手に入れたコウタですら、その枠組みに収まるまで逃げられ続けた。名前を呼んでもらえるまでにはなれたが、その頻度は今もそう多くは無い。
 当初は友人という意味すらあまり理解出来ていなかったようだったから、恋人なんて言わずもがなだろう。
 二人で溜息なのか、唸りなのか、いまいち判断し難い声を上げ、とりあえず、経過報告はこれまで。話は本題に戻る。
「思うに、リンドウさん『だけ』が喜ぶような何かがあったんじゃないかな?で、センカの方は普通程度の何かだったとか」
「あら、どうして?」
「だって、あいつ、いつも通りなんですよ…俺、リンドウさんと任務に行ったなんて、全然知らなかったもん。サクヤさん達は知らないだろうけど…センカってリンドウさんが関わると近くに本人がいなくても警戒するんです。俺に分かるくらいだから、結構、あからさま。何かあったら、リンドウさん絡みだってすぐ分かりますよ!それが、昨日、あいつと会った時は普通だった…でれっでれなのはリンドウさんだけ!」
 そう。あの日、任務から帰ってきたらしいセンカと会ったコウタは彼がリンドウと出かけた事を知らなかった。少しでもリンドウが関わるようなものがあるなら身を固めるような素振りを見せる事を密かに知っていたから、あまりにいつも通りの風を崩していないセンカがまさかあの雨宮リンドウと任務に行っていたなどとは思わなかったのだ。だから、噂を聞いて、飛び上がる程驚いた。
 目を丸くしながら目撃者達に片っ端から話を聞いていた最中、丁度、エントランスへやってきたサクヤを見つけて慌てて捕まえたのが、数分前の事である。
 矢鱈と上機嫌なリンドウと、平常通りのセンカ。ここにかなりの温度差があるのは否めない。
「サクヤさんはリンドウさんから何か聞いてない?」
「そうね…」
 彼女は虚空を見上げて思い返した。
「兎に角、超が付くほど上機嫌だった事は確かね。花が飛んでたわ…」
「…ウゼェ…」
 我慢できず、ついに口を開いたのは此処まで傍聴に徹していたソーマだ。右隣ではコウタが隊長の浮かれ過ぎに引き攣っている。
「スキップでもしようものなら、つい神機が火を噴いていたかもしれないけど…流石にそこまではなかったわね。良いものを見たって言ってたけど…」
 内容が少々穏やかではないが、雰囲気だけは穏やかな声音を聞きながら考える。――――良いもの。リンドウが喜ぶくらい、良いもの。多分、ヒントはそれだ。良いもの。良いもの。しかも「見た」と言っている。良いもので、見るもの。引っかかる。もう少しで答えが出そうだ。良いもの。良いもの。極々最近、それっぽい事があった気がする。良いもの。そういえば、エントランスで例の事件があった後に聞いた気が…。
 念仏の如く脳内で言葉を並べ立てるコウタの頭に、次の瞬間、電球が点いた。

「わーかったぁあああ!!」

 拳を握り締めて、天井へと突き出す。所謂、ガッツポーズ。
「分かった!絶対、アレだ!サクヤさん達は居なかったから知らないだろうけど…絶対アレだ!」
 アレだアレだと言われても、サクヤとソーマは首を傾げるばかり。
 センカに関するもので、良いもので、見るもの、といえば、コウタの記憶上、アレしかない。――綺麗で、その色香に息を呑む、あの光景。良いものを見たと言う声を聞いたのは、そう、エントランスでのあの事件の後だ。一部始終を見ていたタツミ辺りがそんな事を言っていて、コウタは顔を真っ赤にして、センカに手を出すな、と怒った覚えがある。
 リンドウが見たものがアレと同じ類のものだったとすれば、常とは違う鮮やかさに心が躍るのも無理は無いだろう。コウタですら、あの後、妙な高揚感が中々抜けなかった。無意識でも恋情を抱いているなら、その感覚は筆舌にし難いものがある筈だ。
 こうなったら居ても立ってもいられない。当のセンカに任務で何があったのか訊いて来なくては!
「ちょっと俺、センカに訊いて来る!」
「あ、ちょ、コウタ!?」
 引き止める声と驚愕の視線を背に階段を飛び上り――こういう時、駆け上がるというより、飛んで上れるからゴッドイーターの身体能力というのは便利だ――、コウタは意気揚々とエレベーターに乗り込んだ。
 選択するのは勿論、ラボラトリ。任務の後は必ずサカキのもとへ行くというから、絶対にそこだ。

 さあ、友達第一号、出陣!



恋路を観察し隊の皆さん。
というか、超上機嫌で花飛ばして歩いてるリンドウさんとか…書いてて鳥肌立った(酷)そりゃあ、皆遠い目するわ!うっかり遭遇しちゃったサクヤさんは運が無かったんだ…(だから酷すぎる)
そして、ここでも問題になっているリンドウさんのまさかの鈍感スキル。自覚するのは難しいようです。頑張れ、第一部隊…!

2010/11/25