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 そんな馬鹿な!

彼氏の真相

 心持、気落ちした様子で報告に来るものだから、てっきり有り得ない失敗でもしたのかと心配したが、ソファに掛けてぽつぽつと話し始めたサクヤの報告はリンドウを唸らせると同時に、少なからず衝撃を齎した。
「アラガミと、どう違うのか…か」
 話が出来そうになかったので、の意味。彼のその思考が、ふかす煙草の苦味を更にきつくする。
「私、心配だわ。あの子、身体の前に心がもたないんじゃないかしら…」
「……笑えない冗談だが、有り得ない話じゃあ、無いな」
 人がある種の行動を起こす際、対象を「それ」とみなさないで置くのは一種の防衛本能だ。サクヤの報告からすれば、センカはその防衛本能を抑え、あえて、「殺す事」に相対している事になる。一つ一つの死について考えるのはそれだけで苦痛だろう。そうでなくとも、新型神機使いというだけで注目され、神経を磨り減らしているだろうに。
「次の任務は…アイツと、か…任務の遂行に関しては問題無いとしても、不安定同士が組んで任務ってのはあまり良く無いな」
 性質で言えば、似ているかもしれない彼等は困ったことに安定しているとは言い難いところまで似ているように思う。違うのは、あからさまに人を遠ざけようとする所と、それとなく拒否する所くらいのものだろう。
 彼等の性質上、次の任務は会話の「か」の字も無いかもしれない。想像して、自分と彼の任務以上に会話の無い任務なんてあるのだろうか、と一瞬、途方に暮れた。
 その他の気がかりを挙げるなら、センカのチームワークの無さも不安要素の一つだ。共同作業だとか、連携だとか、そういった言葉に無縁の戦い方は次に組ませる者と大差無い。しかし、概ね、作戦通り動いてくれる彼と違い、センカのそれはチームワーク以前の問題である。
 新型を使っているからという理由では説明出来ない、群を抜いた強さが彼にあのような戦い方をさせているのは想像に難くない。リンドウ自身、あの演舞の中に踏み込む事自体、自殺行為にも思う。だが、それでは複数人で作戦を立てて向かう意味が無いのだ。
 せめて、身一つで敵陣に飛び込んで死亡率を無駄に上昇させる事の無いようにして欲しいと男は煙混じりの溜め息をついた。
「俺がついて行けりゃ問題無いが、それじゃあ意味が無いからなぁ」
 あの小さな肩にどれだけの重荷が乗っているのか、傍から見ているだけの自分達には想像もつかないが、その片鱗だけでも触れられたのは今回の大きな収穫だろう。――――それにしても、サクヤはどうやってあの不思議の国の御姫様と会話を成り立たせたのか。ふと、否、激しく気になった。
 つぅるり。視界の端で重力に負けたビール瓶の汗が滑る。
「あー、話は変わるが…どうやってあいつと会話を成立させたんだ?無言で拒否ってただろう?」
「え?そんな事無いわよ?ちゃんと話せる子だったわ」
 それとなく聞いてみたリンドウに正面からぶつかってくるのは至極、不思議そうな視線。刹那、朱の双眸を見開いて、次の瞬間、それは少し不憫そうなそれに変わった。――――いや、何故、あっさり断言された挙句、そんな目をされなければならないのか。気になる。凄く、気になる。まさか、いやいや、まさか、そんな事はないだろう。センカと自分は数日前に会ったばかりだ。そんな事がある訳が無い。あってたまるか!でも、そういえば、この間送ったメールの返事もまだ来ていない。馬鹿な。そんな馬鹿な!俺、何かしたか!?
 つるぅり。ビール瓶の汗がまた一つ、重力に負けた。

「……リンドウ、多分、貴方、嫌われてるわ…」

 畜生!告白前に失恋した気分だ!



可哀相なリンドウさんのお話(ぇ)GE長編は重い話になりがちな気がしそうなので、こういう癒し(?)は大事です。
日々、アラガミを狩ってるって事は毎日何かを殺してるって事ですよね、という自覚のある状態というのはきつそうだなぁ、と思う訳で……割り切れないのは不安だね、という大人組の不安。勿論、新型さんはあまり気にしていない、というオチ。

2010/09/30