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 流れ弾?そんな訳ないでしょう。

狙いを定めてミスショット

「で?言い訳があるなら聞いてやる」
 フェンリル極東支部第一部隊隊長、雨宮リンドウ少尉が怒りを露にする事は至極、珍しい。稀というより、それを表に出さない術に長けているというのが正しいが、それを差し引いても、少しばかり行き過ぎるくらいには寛大な彼が目に見えて怒るというのはアラガミ同士が手を繋いでスキップする事よりも珍しい事だった。
 更に言うならば、その見るからに怒り心頭のリンドウを前に硬く冷たい床で正座を強要されている新型神機の使い手が心持、項垂れているように見えるのも、常であれば有り得ない。
 つまり、今、このエントランスで繰り広げられている光景はどれを取っても珍妙なものだという事である。
 そう結論付けて、ファイルを片手にコウタに小言を浴びせていたツバキは今一度、実弟であるリンドウを上から下まで眺めた。――――ぼろぼろの、ずたぼろと言って差し支えない、リンドウの姿を。
 あまりに珍しい姿に、コウタの指導が中断されてしまっているのは致し方ない事だろう。寧ろ、この場にいる誰があの姿を見て作業を続けていられるのか。そんなものはここの支部長かマッドサイエンティストくらいのものだろう。
 溜め息さえも飲み込んで、あえてリンドウが如何にぼろぼろなのかを誰も言葉にしないのは一重に彼の名誉の為だと思う。静寂が痛い。
 不運にも任務から帰った直後にこの現場に遭遇したらしいソーマが出撃ゲートで石像よろしく固まっているのが中々、シュールだが、周りの硬直を綺麗に無かった事にして、彼らの応酬は始まった。
「もう一度言うぞ?言い訳があるなら聞いてやる」
 手当てするのも馬鹿馬鹿しい程ぼろぼろな自分を、とりあえず後回しにする事にしたのはリンドウが帰りのヘリの中で決めた事だ。アナグラに帰ってきて早々、いつものようにふらりとどこかへ雲隠れしようとするセンカの細い肩を掴んで引き止めた。
 今回の任務自体は全く難しい事は無く、寧ろ、リンドウと新型の使い手であるセンカにとっては簡単な部類だったと思う。刀身と銃器の切り替えが出来る新型がいるから、と他に遠距離型を連れて行かなかったのは間違っていなかったと今でもリンドウは思うが、それはまさかこんな事になるとは思わなかったからだ。
 ぽたり。正座をさせた彼の双眸が床に落ちた血を追うように彷徨う。表情の乏しい白藍の瞳が、今は少しだけ揺れていた。

「…撃ったら、当たったんです」
「俺にだろ」

 間髪入れずに返された言葉が、再度、空気を凍らせる。
「………だから、撃ったら、当たったんです…」
「だから、俺にだろ」
 二度も言葉をねじ伏せられて、今度こそ、銀色の頭を俯かせてしまった彼は一応、反省しているらしい。コウタが、珍しい、と呟く声音がやけに大きく聞こえた。
 そう。それ程、危険な任務ではない――危険ではない任務など無いが、比較的、という意味だ――からとセンカだけを連れて行ったのは間違いではなかった。誤算だったのは――――彼の誤射の凶悪さだ。
 その具合といったらとんでもない。台場カノンも真っ青になるような誤射。しかも狙ったように当ててくるから性質が悪い。しかし、以前、共に組んだ時はこうではなかった筈だ。持ち前の部下思い精神でリンドウが己の記憶を手繰れば、誤射どころか、サクヤも驚く程、正確な射撃でアラガミの急所を的確に貫く腕前を見せてくれた初任務が思い起こされる。射撃だけ上手いかと思えばそうではなく、その細腕のどこからそんな力が湧いて来るのか問いたくなるような剣撃まで見せられ、正直、開いた口が塞がらなかった。だからこそ、リンドウも安心して彼を連れて任務に出たのだ。
 その結果が、この見るも無残な己の姿。涙が出そうだ。
「お前は冗談で誤射するような奴じゃないと思っていたがな」
「…だって、先輩がそこにいるから…」
「理由にならんだろ!」
 俺を殺す気か!語調を荒げる雨宮リンドウも任務以外では中々珍しいが、律儀に正座をしたまま目をそらす新型神機使いも珍しい。気がつけばヒバリまでもが顔を出している始末。
「…先輩は丈夫だからいいんです」
「良くない良くない、全然良くない!」
「じゃあ、避けて下さい」
 仰け反るとかして。さも当たり前のように言い放った彼に、今度はソーマの喉がごくりと鳴った。リンドウの次は自分の番かもしれないと思うと、血の気が引く。
 そもそも、戦闘中、アラガミの他に味方の弾道にまで気を使わなければならないというのは酷な話だ。――――映画の超人の如く弾除けリンボーを披露する自分を想像した何人かが、自分には無理だ、と首を横に振った。
 その代表として、未だ、出血が止まらない頭を抱えてついたリンドウの溜め息はきっとヴァジュラよりも重かったに違いない。
「……いやいや、無理だろ。というか、何であんなに狙ったように俺に当たるんだ?前はそうじゃなかっただろ…」
 この期待の新型は何か特別な訓練でも受けていたかのような動きを見せる、と少々、異色の経歴を持つソーマですら呟いていた。
 しなやかな筋肉を最大限に使用した動き。神機で風を斬り、肉を裂き、弾丸を異形の血肉に沈める姿は演舞の如く。感情の色の薄い白藍の瞳が作戦中にだけ苛烈な程の冷えた炎を宿す様は、ぞくりと背筋を撫でる美しさがあった。
 その彼の性格を考えて、任務中に遊ぶような事はしないだろう。それも作戦失敗に繋がるような事は絶対にしない。それがどうしてこんな事になったのか。――溜め息をついたリンドウの考えは、直後、粉々に打ち砕かれた。

「狙ってるから当たるに決まってるじゃないですか」

「……は?」
「うわっ、言った…」
 顎を落とした第一部隊隊長の生返事と同時にうっかり口を開いたのは新米偵察兵だ。あちゃー、そんな事だろうと思ったけど、なんて声も聞こえるが、出来れば信じたくは無い。
 引き攣った口元は怒りよりも動揺から。
「お、おま…っ…なんで…」
 作戦中に狙うくらい怒り心頭という事だろうか。何故怒っている?彼の逆鱗に触れるものをいくつか候補に挙げてみるものの、どれも実行した事がある所為か、どれが原因なのかが分からない。どれだ、どれだ…さっぱり分からないが、近々の出来事で彼の逆鱗に触れそうな事は…アレだ。任務に少々やる気が無いように見えて実はそれに支障をきたす事を良しとしない彼がちょっぴり我慢ならなくなってしまうような出来事。
「まさか、一昨日の夜の…」
 漸く紡いだ震える声音に、いつもの無表情で合わせて来た彼の瞳が、やけに綺麗だった。

「あの日、部屋に返してくれなかったお礼です」

 翌朝の任務が辛かったんです。そう言って動きを止めた彼らの周りで、公に言えない勘違いをした石像がひしめいていた。









「あの、さ…一昨日の夜って…何?」
「書類の整理に朝方までつき合わされたんです」
「…え?そ、それだけ?」
「?それ以外に何かあるんですか?」
「えーと…うん。いいや、気にしないで…」
 センカに真相を聞いたコウタは虚空に呟いた。――――愛って命がけ、と。



自分だけが楽しいGESS。今度はリンドウ+男主。根底はリンドウ→→→男主ですが。
当家の新型は微不思議さん(?)なので誤射なんて本当はしません(ぇ)リンドウさんのセクハラとパワハラに静かに怒りメーターを上げて、爆発すると作戦中に誤射という復讐に乗り出します。百発百中、オールヒット、OPの無駄遣いはしません!
一方のリンドウさんは新型大好きで書類整理に付き合わせるわけですが、新型には全くその愛のアピールが伝わっていないどころか怒らせてしまうという…あれ?リンドウさんを苛めたいのか、私…(ぇええ)
ちなみに、コウタは新型の中で辛うじて友人ポジションをゲットしているので多少、傾向を理解しています。多分。

とりあえず、リンドウさんは周りが不憫に思うくらい新型にアピールして玉砕してればイイですよ!!(酷)
嫌われたと思った後でコウタかタツミ辺りに「リンドウさんの悪口言ってた奴を滅多撃ちにしてましたよ」とか聞いて、舞い上がるくらい喜んで白い目で見られてれば尚更イイです(酷すぎる)

公に言えない勘違いは…ほら、アレですよ。ガッツリ朝までヤっちゃったの?みたいな。

2010/05/18