気になっていないと言えば嘘になる。気になっているといえば、癪になる。多分。
ファレノプシス
空気を振るわせたかどうかも怪しい声音。不貞腐れるように紙の束に顔を埋めてしまったロゼの、耳まで赤い肌が羞恥の具合を物語る。時折、小さく唸る声が聞こえるのは、きっと耐え切れなかった羞恥が口から零れ出しているからだ。首筋を淡く桃色に染めた肌は顔まで辿れば林檎の如くになっているに違いない。涼しげな青い髪と反する熱の色。華奢な肩が必死に顔を隠そうと紙束を寄せ上げる仕種が澄ました彼の印象と違い、愛らしい。こんな様子は、見た事が無い。
恥ずかしさで小さくなっていたロゼは、だから、目を丸めていた彼が殊更、柔らかに微笑んだ事に気付かなかった。熱を宥める、静かな声音が響く。
「…最近ね、お気に入りの店があるんだ」
視線だけちらりと向けてきた青い双眸には視線を返さず、フランチェスコまた書類に目を落とした。――幸い、今手にしている書類はこの辺りの書棚に納めるものだ。暫くはこの真っ赤な顔で紙束の陰に隠れようと必死になっている彼の傍での作業になる。
「僕は機械を弄るのが結構、好きなんだけど…意外とそういうのって少なくてね、弄る材料を探すのが大変なんだ」
嘘ではない。機械技師は少なくないが、決して多いとはいえない。奇妙なアトリエの、普通科の男の子が操る機械にも実は大変な興味があったりもするが、立場上、贔屓につながるような事は出来なかった。融通の利かない苦々しさを感じる瞬間の一つだ。
「購買部じゃ、手に入らないのか?」
「入るよ。質や面白さは別だけどね」
同じ物でも出来が違う、と思いを馳せて虚空に微笑む彼の目が輝いているように見えるのは錯覚ではないだろう。書類の翳から盗み見る姿が活き活きとしている。――――悔しくは、ない。決して。多分。自分なら嫌々習った錬金術で何か作ってやれるのに。
ぱさり。また書棚に消えていく紙束。
「最近行く店は時々しか開いてないんだけど、いつも良い物があって…そうだなぁ。この間、買った物だとギアボックスとかは中々面白かったよ」
ゆらゆら揺れる橙の明かりが何故だか憎らしい。青い双眸を細めて睨みつけるロゼにその自覚は無いだろうが、彼の顔の熱は先程とは些か違うものを帯びていた。
別に。そう、別に、大した意味は無い。ただ、奇妙な息苦しさを感じるだけで、別に、フランチェスコがギアボックスを買って、それが興味深いものだったのならそれで良いだろう。別に誰が彼の接客をしたのか、とか、誰が彼を楽しませる物を作ったのか、とか、一体、それが誰の店なのか、とか。そんな事は気になってなどいない。決して。絶対に。明日のバザーの接客を賭けても良い。
言い訳がましい思考が鬱陶しくて仕方が無いと思いながら、ゆっくりと踵を返して書棚に向き合うロゼの目は険しいままだ。
「…楽しかったなら、良かったじゃないか…」
ざく。乱暴に突っ込んだ書類が引っ掛かって蛇腹を作るのに舌打ちして、仕方なしに入れなおす。畜生。何なんだ。
戸惑いを他所に降下していく気分を持て余すロゼの傍らで、フランチェスコはやはり赤い双眸を細めて穏やかに笑っていた。その微笑がどこか楽しんでいるように見えるのにロゼが気付くのは、果たしていつだろうか。
「その店は購買部の一番奥にあるんだけど…わかるかな?」
「奥…?」
奥、といえば、あの窓の辺りだろう。日当たりの良さでは随一だろうが、戸口近くの店に客を取られてしまう死に場所、といえばそれまでの、広いだけが取り得の店舗。場所柄の所為か、そこに店を出そうと誰も文句一つ言わない。自分が店番に立つ時はあんな奥まで態々、訪れる物好きを滑稽だと思ったものだが、この男もその滑稽な人種の一人だったらしい。
「…あんた、目当ての物の為ならいくらでも骨を折れるタイプか…」
悪くは無い。悪くは無いが、多少、腰が引けてしまうのは自分がそういった性格ではないからだ。どちらかといえば、諦め癖のある自分だ。何かに熱中する事など久しく無い。まだ若い美空で達観した翁のような思考もどうかとは思うが。
じり、と音を立てたランプの火に合わせて飲み込んだ唾が重く喉を通る。
「俺には真似出来ないな」
「人それぞれだと思うよ。目当ての品がありそうなのも、その店を気に入ってる理由の一つだけど、本当の理由は、」
もったいぶるような口調に、思わず耳を澄ませて――
「売り子さんに可愛い子がいるからなんだ」
「ぶふっ!!」
吹いた。書類が皺も伸ばせないくらいにくしゃくしゃになってしまったのは絶対に自分の所為じゃない筈だ。
身を丸めて咳き込むロゼの震える背を優しく宥める手がゆっくりと上下する。――――いやいやいや、こんなものに絆されてはいけない。この男は涼しい顔であっさりと男らしい垣間見せたのだ。この涼しい顔で!今も咳き込む自分の背を、何故そんなに咳き込んでいるのかとばかりに物珍しそうな目で見ているが、そんなものには騙されない。きょとんと見つめてくる瞳が綺麗だとか、そんなものには決して騙されそうでも騙される訳にはいかない。
「げほっ…あ、あんた、そんな不純な理由でその店に通ってるのか!?」
「不純って…普通じゃない?」
狼だ。この男は羊に見せた狼だ。甘い声音で誘い、相手が身を任せた所で美味しく食べてしまうに違いない。暖かいと思ったはずの声音も今では妖艶な悪魔の囁きに聞こえてしまう。
刹那、身震いしたロゼを置いて虚空を見上げたフランチェスコの瞳が木漏れ日を見上げる穏やかさで細められても、学生課内の奇妙な空気を払拭する事は出来なかった。
「本当に可愛い子なんだよ。綺麗な青い髪の…君のアトリエの子なんだけど、知ってる?」
綺麗な青い髪の、可愛い子。知っている限り、知り合いに青い髪は三人いる。そのうち一人はあの煩い女のアトリエに所属しているから除外出来るとして、問題は残る二人だ。青い髪の、可愛い、子。人、ではない。あくまで子。逐一、余計な事を言って頭をどうにかされている恍けたメイドは人ではないが、かといって子、と表される程若くも無い。彼女には盛大な抗議をされるだろうが、彼女が子と表されるなら世界の中年女性は皆、赤子だ。寧ろ、長寿記録を塗り替えるご老人ですらそうだと言えるかもしれない。
一人一人の特徴を思い描くたびに少しの身震いで肩を戦慄かせながら考え込む。
残るは一人だ。綺麗な青い髪の、可愛い、可愛い、子。生い立ちに多少の問題はあれど、アトリエ中、最も若い彼女が子である事には変わりない。周りの酷く瑞々しい、青くて、丸い、ぷにぷにした、物体…失礼。生物――その表現も十分失礼だが、悪気は無い――がいなければ十分に可愛らしい面立ちだと思う。高い声で必死に自分の意思を伝えようとする様は微笑ましくもあり、自分も無い筈の兄心まで出してしまいそうになる。
じり。ランプの火が啼いた。
「………ぷによ、か…?」
何か、内側を爪先で掻いた様な感覚を覚えたのは錯覚だろう。優しく見つめてくる赤い瞳から目を逸らして、ロゼはぎこちなく書類を処理するように装った。心持、滑り出る言葉が早かった気がするのは気のせいに違いない。
「あんたにそんな趣味があったなんて知らなかったな」
フランチェスコが一体いくつなのかは知らないが、まともに人間の言葉すら喋れないような幼女に興味を示すとは予想外だ。長生きを理由にした、少々変わった趣味を持っているらしい人間ではない知り合いの生き物――何度も言うようだが、その表現に悪気は無い――を彷彿とさせる。
美味しいと思ったはずのケーキが見た目ばかりの塩の塊だったような、落胆に似た感覚。若干、苦い顔をしたのは常識外れのこの場所で、彼くらいはまともだろうと踏んでいたからではない。そんな期待は全く持っていない。明日のバザーの店番を賭けてもいい。この言い回しも二回目だ。ああ、馬鹿馬鹿しい。
「…まあ、頑張れ」
あれは、否、あれらは色んな意味で手強い。手を貸す気にはならないから、まあ、頑張ってくれ。投げやりな、棒のような口調でしか言えなかった自分が惨めで仕方が無い。
沈黙が降りた学生課で紙ずれの音だけが忙しなく響く。壁を照らす柔らかな明かりはランプの炎に合わせて揺れ、積み上げられた本や紙束が踊るように波打っていた。時折、じりりと蝋の焼ける音がしたと思えば、光が身を縮め、やがてまた大きく部屋を照らす。大きく設けられた窓から差す冷えた月の白い光が橙に溶かされて、温度を帯びる様は幻想的ですらあった。――小さな呼吸の音。響く靴音。昼間の喧騒とも言える騒がしさと比べ、なんと静かな空間だろう。静寂というよりも閑散としているという方がしっくり来るかもしれない。一人でこの場にいたなら、無駄な騒音で孤独を拭い去る、それこそ無駄な行為を働いてしまいそうだ。
思考に止まりそうになる手を叱咤しながら、目で書棚の背表紙を辿るロゼの耳を、ふいに微かな含み笑いが擽った。
「…なんだよ」
言いたい事があるなら言ってほしいものだ。思わず鋭くなった青い眼光を前に小さく肩を震わせて笑い続けるフランチェスコの度胸も見上げたものだが、お世辞にも気分は良くない。また吹き出しそうな男の銀の頭を傍らに積み上がった本で殴れば少しはこの笑い上戸がなりを潜めるだろうか。
本気で山に手を伸ばそうとしたロゼの指を苦し紛れの声音が止める。
「ごめんね。何か、勘違いしてるみたいで…可愛かったから」
「殴るぞ」
引いた筈の熱が再び頬に上り始めたのを感じたロゼの手が書類を振り翳すより早く、抑えた声が鼓膜を叩いた。
「ここまで言ってるのに気付かないなんて、ちょっと予想外だったんだけど…君が想像してるのは全部はずれだよ」
少し困ったような口調。嘘など欠片も無く、意外そうな声音。鈍そうだとは思ったけど、ここまで強敵とは思わなかったなぁ、なんて、続く言葉を口の中で転がして、けれどロゼには全く意味が分らない。ぷによでないなら誰だ。やはり、あのドジなメイドのマナだろうか。だが、彼が言うには今まで候補に挙げた者の、誰でもないという。考え全てを口に出したわけではないが、彼が言うならそうなのだろう。
悪戯に光る石榴の色を見返す青色は困惑に揺れるばかりだ。見当もつかない、と語る双眸は大人びた彼を幼く見せて、淡く染まった頬が花を添える。
「本当にうちのアトリエか?」
ウィムでもない。ぷによでもない。ならば、他のアトリエの者と間違えているのではないか。そう問い返すも、フランチェスコは銀糸の髪を揺らして首を振る。手詰まりだ。本当に、皆目見当もつかない。
「…他に青い髪のヤツなんか、俺のアトリエにはいないぞ?」
「いるよ。可愛い子が、ね」
ぱさり。手の内の書類をまた減らしながら、返る声音が妙に自信に満ちているのが釈然としない。殊更、大きくランプの火が揺れ、影が躍る。
「いつも誰かと一緒なんだけど、店にいる時だけは一人でね。でも、他にもお客さんがいるから、ゆっくり話をした事なんかないし…カウンターで話してても接客の域を出ないし。まともに話した事なんて無いけど、青い髪に青い目の…落ち着いた雰囲気の綺麗な面立ちの子なんだ」
綺麗な、面立ち。ぷによも、今は可愛いが、綺麗に見えなくも無い。――口元に手を当てて考え込むロゼの思考を彼の声が苦笑で遮った。
「…今、考えてる事もはずれだからね」
「……なんであんたが俺の考えを読めるのかは、とりあえず後回しにしてやる」
苦々しい顔で顰めた眉間を数度、揉み解すロゼの疑問は際限無く増加傾向にある。フランチェスコ自身に関わった事など、課題云々を除いてこれまで一度も無かった事を考えれば、それは至極当然の事だが、それが癪なのも確かだ。こちらは何も知らないのに、相手ばかりが先手を打って状況を変えている。学生課に押し寄せる学生達を捌く為に鍛えられた話術なのかもしれないと思いつつ、手の内で遊ばれているような感覚は拭えなかった。悔しい。悔しいが、目下の問題はフランチェスコの言う売り子についてであり、フランチェスコの不思議についてではない。
ロゼは唇を再度、引き結んで喉から溢れそうな疑問詞を飲み込んだ。言葉を紡ぐ事を止めた薄い唇を一瞥して、フランチェスコが口を開く。
「学生課に来ても、今度はこっちが仕事だから、やっぱりまともに話せないし。その子の他にも人がいるしね。…課題の後は凄く疲れた顔してるし」
疲れた顔。しかも、凄く。これは結構なヒントだろう。うちのアトリエで、課題の後に凄く疲れた顔をしているやつ。
「自由時間も…アルバイトの報告に来る時はもっと疲れた顔してるよ」
そいつは自由時間にはもっと疲れた顔をしているらしい。相当、苦労をしているのだろうか。
「よく、ピンクの髪の女の子に引き摺られていくのを見るけど、その後は決まって青い髪のメイドを連れてる金髪の子に何か言われているなぁ」
更にそいつはエトらしき人物に引き摺られ、ウィムらしきメイドを連れたリリアらしき人物に小言を言われているという。…なんだ、この親近感は。おかしい。
「ぷにぷに達とも仲が良いみたい。あと学生課でも仕事を頼むマナとも。…その辺りはちょっと癪だけど」
ぷによ達とも仲が良くて、ユンらしきマナともそこそこ仲が良いそうだ。フランチェスコは後者の関係をあまり良く思っていないらしい。…待て。よく人数を数えろ。ひぃ、ふぅ、みぃ、よぉ、いつ…うちのアトリエはマナを入れれば六人だ。エトらしき奴と、ウィムらしきメイドと、リリアらしき女と、ぷによ達らしきぷにぷにと、ユンらしき表現はあった。これで、五人。あとは一人しかいない。待て。待ってくれ。何度も言うようにうちのアトリエはマナを入れれば六人だ。それ以上でも以下でもない。座敷わらしでも居ようなら話は別だが、そんな噂は終ぞ、聞いた事が無い。おまけに先の情報を加えればそいつは綺麗な青い髪らしい。くどいようだが、うちのアトリエは、マナを入れたとして、六人だ。あとは―――― 一人しかいない。
「…うそだろ」
ぽつりと呟いた言葉が小さく穏やかな沈黙に漣を立てる。
「嘘なら、こんな所で言えないな」
ランプの明かりを受けて煌く赤色に熱が上がりそうだ。無意識に力を込めた腕の中で紙束が悲鳴を上げた。
「うそだろ」
繰り返す事しか出来ないのはそれ以外の言葉が見つからないからに他ならない。こんなのは趣味の悪い冗談だ。馬鹿馬鹿しい。そう思いたい。だが、割り切れないのは、身体をこちらに向けて、本格的に向き合ってしまった彼の双眸がそれを否定しているからだ。
「あれだけ言っても中々、気付いてくれないから、困ったよ。結構、緊張した」
苦笑いする彼の頬が仄かに染まっている気がするのはきっとランプの中で揺れる小さな炎の所為だけではないだろう。ああ、だから、そんな目で見ないでくれ。期待するのは得意じゃないんだ。やめてくれ。
頭の中で響く意味の無い抵抗の叫びが軽く眩暈を起こさせて、ロゼは赤い瞳を呆然と見つめ返したまま緩やかに首を振った。
「うそだ…青い髪の、あと一人って言ったら…」
「うん。君しかいないね」
瞬間、燃え上がるような熱が身を焼く。熱い。息が詰る程、胸が早鐘を打ち、耳元で血管が唸りを上げて思考を掻き乱す。体中が沸騰しているようだ。言葉も無い。あるなら理性もけったくそも無く口から飛び出しているはずだ。
熱に潤んだ美しい青が眼窩から零れるかと案じるくらいに見開かれた双眸。火に潜らせた銅よりも早く赤く染まった顔は頬と言わず、耳から首筋まで真に林檎のようだ。或いは、コートの下まで真っ赤かもしれない。金魚のように開閉を繰り返す唇はしっとりと濡れ、甘い艶を帯びて必死に何かを紡ごうとしている。――――これで愛らしいと評さない者がいたなら、それは表現に乏しい愚か者だ。
抑えきれない高揚感がフランチェスコの口元を歪ませる。彼のこの反応は、嬉しい。予想だにしていなかった。そうあってくれればいいと、露程にも望まなかったと言えば嘘になるが、ここまでの反応は完璧に予想外だ。こんな顔はきっと彼のアトリエの誰もが知り得ないに違いない。
「返事は急がないよ。ただ…出来れば、卒業までに答えをくれると嬉しいな」
きっと、色々な思考が頭の中を駆け巡り、破裂しそうになっているのだろう。これ以上は寧ろ、可哀想だ。押し付けるつもりも無い。フランチェスカは甘いと言うだろうが、お世辞にも押しが強いとはいえない自分の性格上、これはどうしようもない。他人の印象を覆すのは中々、難しいものだ。失望されても困る。離れて、距離が遠くなってしまっては尚更、困る。
臆病といえばそれまでだが、これで終わらせてしまうには少々惜しいのも確かだ。
まだ金魚の真似を繰り返しているロゼの顔は見つめる程、冷めるどころか熱を増している。あー、だの、うー、だの呻きながら天井に、壁に、床に視線をやって、穏やかな赤い瞳をちらりと見ては、刹那、顔の熱を上げて抱えた紙束に目を落とす様はフランチェスコの胸を擽って止まない。
「…ぅ…あー…いや…だから…別に、あんたの事は嫌いじゃないけど…だから…嫌いじゃないって事はだな…つまりは、だから…う…」
漸く紡いだ途切れ途切れの言葉。風も無いような夜だからこそ聞こえたような小さな声。その言葉が嬉しくて、くすりと笑えば、笑われた事が恥ずかしかったのか、書類に顔を埋めてしまうロゼの真っ赤な顔。可愛らしい面が見られないのは至極、残念だが、その仕種自体が可愛いものだから、結局は可愛くて可愛くて仕方が無い。――――困ったものだ。きっと彼はそんな小さな素直が大きな喜びをもたらす事にすら気付いていないのだろう。もうちょっと押してみたら、なんて、そんな悪戯心が頭を擡げたとしても誰も責めない筈だ。多分。これは自分にしてはとても珍しい事だけれど。
こつりと靴を鳴らして。一歩、距離を縮めて。まだ触れられない。
「そんなに可愛い君を見せてくれるのは嬉しいけど…」
笑んだ唇にふわりと触れた青い髪から覗く真っ赤な耳に唇を寄せれば、怯えたように肩が竦む。
「あんまり可愛くすると、期待しちゃうよ?」
いいの?息を吹き込むように囁けば、今にも零れそうな水で揺れる、潤んだ瞳が紙の陰からフランチェスコを睨んだ。――――吐息が触れる距離。瑞々しい唇に思わず息を呑む。
「…あんた、意外と意地悪だろう」
「さあ?これでも結構、色んなものを奮い立たせているんだけどね」
だって、言ったでしょう?「誰も『僕』の事は知らない」って。
言いながら、やっぱり微笑んだフランチェスコの頬は少しだけランプの明かりとは違う色に染まっていた。
こんなに長くなるとは思わなかったので途中でぶった切ってしまいました…。話の展開が゙二枚目の冒頭でちょっと可笑しいのはその所為です。
結論から言えば、フランチェスコ、わかんないよ!!と、その一言に尽きるわけでして…キャラを掴もうと頑張った結果、二枚になってしまった、と。笑えなさ過ぎて…ええ、纏まりが全く無いのは承知しているんです…。それもこれもゲーム中でフランチェスコが殆ど喋ってくれないのがいけないんだ!!(転嫁)
というわけで、当家のフラロゼは緩くて穏やかなバカップルだと思います…。きっと手繋ぎもキスも二人で恥ずかしがって痺れを切らせたフランチェスカが罠を仕掛けて進展させたりするんですよ…初々しすぎる二人。でもフランチェスコが調子に乗ってくる(?)とロゼに悪戯したりとかしてラブ度を上昇させていくんですよ…多分。
ちなみに、題名のファレノプシスは胡蝶蘭の事です。花言葉は「お似合いの二人」とか「あなたを愛します」とか…種類によって違うようですが、「機敏な人」というのもあったと思います。
2008/09/04 |