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花牢 

 暮れ六つの拍子木が鳴る。
 昼見世の野暮さが薄れる宵時に羽織袴の買いの客がちらりほらりと格子を覗く頃、薄ぼんやりと灯る明かりは冷える夜気に艶やかな情緒を添えて、一際明るい張見世に浮かび上がる籠女が柳腰で流し目を送れば、あらぬ熱が布の下で膨れ上がる。
 遊郭。美しい花が溢れる遊びの囲い。無論、遊びといえども子供のそれではない事は筆にしたためる事も無いだろう。かくれんぼ一つにしても、はて、どこに隠れるものか。股の間に隠れるのだと言っても洟垂れ小僧どもには見当も付かない、着飾った女達が色を売る場所。
 しかし、長年続いたしきたりを厳しく守る姿勢はいっそ清清しく、街に溢れる淫蕩さすら、職人仕事に溜息が零れた。
「…もう、夜…か」
 二階から見下ろす路地には団子のような人だかり。いつもの事だが、よくもまあ、飽きもせず来るものだ。馴染みの遊女に会いに来るのもいい加減、うんざりしないものか。
 そう思いながら、着物の裾を畳に滑らせた彼もまた、これから、その「飽きもせず来る男達」に己を見せびらかしに行かなければならない。それこそうんざりするものだったが、ここに遊女――彼の場合は陰間になるが――として身を置いている以上、彼に拒否権などあろう筈がなかった。
「ロゼー?そろそろ降りてこないと遣り手おばさんにいびられるわよ?」
 ほら。声がかかった。だが、知った声だからまだ良い方だろう。催促される事はいつもの事だが、呼ぶ声が常に友好的かといえば、それは否だ。――性には合わないが、他の者達の厭味を跳ね除けてきただろう彼女の為にもそろそろ重い腰を上げなければいけない。

「わかった。今、行く」

 どう足掻いても、ここから逃げる事など出来ないのだから。


珍しく、簡単な序章めいたものを。ずっとヤってみたかった遊郭ネタ!
ちょっとした雰囲気がわかってもらえればそれだけでイイ代物なので読み飛ばして頂いても構わないのですが…こういう雰囲気のあるものを書こうと頑張るのは久しぶりなので書いていて面白かったです(笑)
遊郭ネタらしくちょっとあやしい表現を入れてみたり。表でここまでヤったもの久しぶりでした。
次から本編突入です。

2009/01/09