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 扉を開けた瞬間、ああ、またやってしまった、と後悔したと同時に固まった。
 原因は至極、簡単。部屋の主がまたしても更衣中だったからだ。

ノックを忘れた日。

 ドアノブを握ったまま硬直してしまったのは、今日も几帳面に拭かれた埃一つ付いていない眼鏡が光を弾くロクシスで、丁度、シャツに両腕を通した所で固まってしまったのは先日、ロクシスに素晴らしいセクシーショットを見られてしまったヴェインで…当たり前の如く、その足元で全てがばっちり見えてしまうベストポジションにいるのはサルファだ。
 思わず、ごくりと喉が鳴ったのは決してその光景が生唾モノだと言う訳ではなかった…と、思いたい。ロクシスは自己弁護に走った。
 前科がある、といえば前科があるんだろう。だが、はたして、それが前科と呼べる程、犯罪的だったかといえば…それは怪しい。何故なら、自分はただ、「ノックを忘れて扉を開けただけ」だからだ。こちらから言わせて貰うなら、その扉の先でそれこそ犯罪的な姿を披露していた彼にこそ前科があるんじゃないかと思うのは…まあ、責任転嫁だと言う事は分かっているが。そもそも自室に鍵を掛けていないのは如何なものかと思う。
 暖かな朝日に照らされたヴェインの姿。否、艶姿。――――最早、目を離す方が男じゃない。
 少し大きめの袖に通る細い両腕。袖口から微かに覗く小さな指の爪先が肩を滑る白いシャツを引き上げようと開いた袂を摘んでいる。晒された肩から背筋に掛けての滑らかな筋と、その白さ。白皙という言葉がこれ程、似合う肌もあるまい。さらりとした質感を感じさせる艶。触れれば粉雪のように指先を楽しませ、そっと震えるのだろう。
 ズボンを履いていない、美しい脚線を見せる下肢は、先日は見えた腰部が今日は裾で隠されてしまっているのが非常に惜しい。しかし、差し込む朝日で透けて見える、細身のシルエットが描く悩ましいくびれを目にすれば、そんな惜しさは当然のように払拭される。白いシャツに投影されたようにうっすらと見える身体の線が露骨に見るよりも酷くいやらしい気がするのは、気のせいではないだろう。緩やかな曲線を描く背筋を伝い、くい、と誘惑するように曲がる線。名女優ですらこんな美麗で完璧なシルエットを描く事は不可能だ。それこそ彫刻の世界だろう。否、彫刻家でさえ、その美しさを表現出来ずに自害するかもしれない。
 溜息を吐く事も忘れたロクシスの目が身体の線を上へと伝い、はたりと止まる。――開いた袂の、その中に。
 ゆっくりとした呼吸に合わせて動く、薄い胸。その頂。小さな蕾は降りしきる粉雪から顔を出す椿の華に似て妖艶にその存在を主張している。桃色に色付くそれが冷たい朝の空気に触れ、なだらかな隆起に変化を持たせるべく、つん、と尖り、シャツが掠るたびに僅かに硬さを増すのを見れば、湧き上がる情欲に唇が乾く。――その蕾を含み、食み、吸い上げたなら、どんな声を上げるのだろう。幼子のように頭を振って、哀願するだろうか。それとも、悦楽に震えて、娼婦のように懇願するだろうか。どちらにせよ、羞恥に頬を染めるに違いない。
 寝起きの暖かな体温まで想像出来る気だるい吐息があらぬ幻想を見せる。――――このまま押し倒してしまおうか?前回は逃げるように部屋を出たが、今回は違う。二度もこんな姿を見せた君が悪い。
 こつりと静かに踏み出した靴音がやけに大きく感じる。
 欲しい、と。ずっとそう思っていた事など、君は知らないだろう。
「ヴェイン…」
 また一歩、距離を縮めて…

ズガシ…ッ!!

「ぐふっ!」
「ロクシス!?」
 奇妙な鈍い音に続いて、突如、金髪が長い尾を揺らめかせて木目の床に沈む。彼の後頭部に痛烈な一撃を食らわせたのは――――素晴しい白銀の毛に覆われた獣のおみ足。
 ぐりぐりとスクリューまで交え、遠慮無くロクシスの端整な顔を床面に押し付ける光のマナに反論しようにも、ロクシスの意識は既に空の彼方だ。それ以前に、彼女のすることに異論を唱える事が出来る者など今、この場には存在しない。
 あまりの展開の速さに、ぽかりと口を開けて呆然とするヴェインを余所に、彼女はもう数回スクリューを入れて相手の戦闘不能を確認してから、ようやく彼を銜えて踵を返した。…ぶらりとぶら下がるどころかぐったりとずるずる引き摺られるロクシスの姿が非常に気になる。
「邪魔したの。ゆっくり着替えるがよい」
 ぱたり。器用に扉を閉めた彼女を、ヴェインは見送るしかなかった。
 小鳥の鳴き声が聞こえる。平和の象徴だ。今し方あった、嵐のような一瞬など嘘のように穏やかな一日が始まろうとしている。
「…大丈夫…かな?」
 沈黙を破ってぽつりと呟く。ロクシスが決して弱くないのは彼と何度か手合わせした自分が良く知っているが、相手はマナだ。しかも記憶する限り、相当に力一杯、張り倒していたように思うが…気のせいだっただろうか。
 後で様子を見に行こう。――――そう割り切って思考を中断し、冷えた太腿を少し擦り合わせて、着替え始めるヴェインに、にゃあ、と足元から声が上がる。
「ん?何、サルファ?」
 首だけ伸び上がってロクシスが見る事の叶わなかった箇所を見上げた黒猫は可愛らしく目を瞬かせるヴェインにこう告げた。
「にゃあ」
 食い込んでいるぞ、と。
 直後、顔から火を噴かん勢いで首まで赤く染まったヴェインが大急ぎでそこを直したのは言うまでも無い。







「ねえ…」
「…なんだ?」
「…………見た?」
「な、何をだっ?」
「だから……その……僕の…」
「み、見てない!見ていないぞ!」
「み、見てないよね!そうだよねっ!…良かったぁ。…それより」
「ん?今度は何だ」
「………鼻血、大丈夫?」
「………問題無い」

 ティッシュで鼻を押さえつつ、微妙な顔で応えるロクシスを今度ばかりは少しだけ哀れに思った光のマナだった。



…御免…でも、下半身もヤったら上半身もヤりたいじゃない?(死)
鬱憤晴らすために書いたようなものなのでロクシスの扱いが酷いです…御免よ…。この前に一本、シリアスを書いているんですが…都合上、こっちが先になりました。…どこまでもタイミングのつかめないクロさん…もっと頑張りましょう。
さて。サルファにあのセリフを言わせるのが目下の目的だったのでそれは達成しました!(え)
あえて何が食い込んじゃってるのかとか言いませんよ?シャツの下がどうなっていたのか、それは皆様のご想像にお任せします!!(放棄)
ちなみに、最後の部分でヴェインは「食い込んじゃってるのを見た?」と聞こうとしていますが、ロクシスは「きわどい着替えシーンを見た?」と聞かれたと思っています。…ばっちり嘘ついてますね!こんの、助平め!(ぇぇ)……ぶっ壊れ気味なロクシスで御免なさい…(泣)どこの描写に力入ってるか、まるわかりですね…。

2007/09/09