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ピロゥトォク

 抱締めながら思う。――このピロゥトォクを。

「ケダモノ」
「……すまない…」
 半目で見上げてくるのをかわしながらボリスは只ひたすらに謝り倒していた。
「5回はデフォルトっておかしいよ…」
 僕の身体、もたないし…。呟いてから、情事を思い出したのか、頬を赤らめて胸に潜り込んで来るルシアンが果てしなく可愛らしいと思ってしまう辺り、自分は終わっていると思う。
 大きめのシャツから覗く淡い色が残る白皙と蜜よりも輝く金糸の髪の甘い香りの誘惑に耐えながら――ここでまた手を出せば次の日は絶対に口を利いてくれないだろう――剣を振るうには細すぎる程の華奢な身体を閉じ込めた。
「………すまない……」
 耐えられないかもしれない…。なんて言葉はこの際、頑張って飲み込んでおく。
 この同い年とは思えないお子様は自分がどれだけ危うい色香を漂わせているか解っていない。解っていない癖に無理にあれやこれやと首を突っ込もうとするから目が離せない。――彼は麻薬に似ている。一度、目を向け、捕らえられ、手を出したならその甘く柔らかな彼の全てに依存してしまう。確信犯かと疑った時期もあったが、正真正銘、究極の天然らしい。だからこそ、尚更、目が離せない。
 ぴん、と髪を引かれる。
「ねぇ、聞いてる?」
 また考え事してただろ?不満気に尖らせた唇を一つ啄んで額にも一つ口付けを落とした。
「すまない、聞いてる」
「…ウソツキ…」
 ぽつりと零して、弱々しくまた潜り込んで来る。――最近、よく見せるようになった顔だ。感情を持て余しているのか、何かを恐れているのか…時折、悲しげに只、抱擁を求めてくる時がある。理由を聞いたときもあったが、無言で首を振って拒否されてしまった。抱擁を求められる事は嬉しいが、力の限りしがみ付いて来るようなその姿は普段の彼から比べ、あまりに切なく…痛々しくさえある。
「…ルシアン?どうした?」
 やはり無言で振られた首に顔を見ようと伸ばした手が弾かれる。――こういう時は決まって顔も見せてくれない。
「ルシアン」
「………だって…ボリス、聞いてなかった」
 読めない声だ。悲しんでいるのか、寂しがっているのか。
「いっつもそうだ。してる時もやだって言ってるのに止めてくれないし…」
 いや、それは理性が砕け散っているからで…。
「もう、無理って言ってるのにさせるし…」
 ……言い方の問題だと思う。
「何より、後始末してる最中が最中になっちゃうのはおかしいよっ!!」
 勢い良く上げられた顔に固まる。
 上気した頬。清水を浴びたような藍玉。今にも頬を伝うと見紛う涙。――全てが頑なな箱を開ける鍵。
 素早く組み敷き、頭を捉えて逃げる唇を奪う。――――嗚呼、さようなら。私の理性。
「ん…っ、ふ…んぁっ」
 冷えた筈の燻りが再び火を灯すまで舌を絡めて、閉じようとした脚を身体で妨げる。
「…ば、か…っ、明日、仕事っ!」
「急ぐものじゃないだろう」
 そういってしまえば抵抗の弱まる身体。――今日もルシアンの負けだ。
 沈み込んだ影にスプリングが嬌声を上げた。

 溺れながら思う。――彼も自分に溺れていれば良いと。
 貪りながら思う。――彼が自分無しでは生きられない身体になれば良いと。

 抱締めながら思う。――――この他愛も無く、甘い、ピロゥトォクが続けば良いと。



クロは葛藤するボリスが好きなようです。
いや、ルシアンが色気振りまいてるのを書くのが楽しいのか…?(どっちもイカンだろ)
どっちにしろ初作がこんなだったのは頭が煮えていたんでしょう、きっと。
時期は未踏のCP6近辺でしょうかね。…てか、喧嘩中にやる事やってるのも…あれ?

200X/XX/XX(忘れるくらい前…)