珍しいけど、これは無いんじゃない?
陽の当たる場所
ふと、暖かな重みに目が覚めた。
ルシアンがその木の根元に辿り着いた時は昼前だった。暖かな陽の当たるその場所の誘惑に耐え切れずに座り込んだのもその時間。連日の任務で疲れた身体を刹那でも休めるには良い所だった。凝り固まった筋肉をぐい、と伸ばして、蕩ける様な顔で陽を浴びる。眠り込んでしまったのはきっとその時だ。ボリスに知れたら、また「緊張感が足りない」と軽い叱責を受けただろうが…目を開けて飛び込んできたのは彼の顰め面ではなく、自分の膝に頭を置いて眠る安らかな寝顔だったのだから、ルシアンはしばし、ぽかりと開いた口が塞がらなかった。
地面に触れさせた指をくすぐる草がささやかな音を散らす。
「えーと……待って?」
とりあえず、状況を整理すべきだ。これはボリスから教えられた事。
「僕はここに座って…ああ、そっか。寝ちゃったんだね?太陽の位置が動いてるんだから、そういう事だよね。うん」
南中を少しずれた太陽を見ながら、恐らく2,3時間は経っているだろうと判断する。これは間違っていない筈だ。間違っているのは…
「これだよね」
この、ボリスの状態。有り得なくも無いが、日常的に有り得るかと言えば若干、有り得ない寄りな状況。別段、ボリスが居眠りするのは構わない。常に神経を過敏にさせている印象を持つ親友にこんな一面があるのはルシアンにとっては微笑ましいと思える事だ。が、場所が悪い。よりにもよって膝枕だなんて!膝から伝わる彼の暖かさが妙にリアルだ。
顔に集まってくる熱をなんとか意識の外に追い出して、風で乱れたボリスの髪を顔から除けてやる。
自分の親友兼相棒を思い出す時、ルシアンは必ずこの色を思い出す。アノマラドでは珍しい、この闇色を。奇異な目で見る無粋な輩もいるが、ルシアンはこの色が好きだった。戦闘時に荒々しく舞う様も、緩やかに風に流される様も、その容姿と相俟って端麗だ。うっかり見惚れて、勘違いしたボリスに熱があるのかと心配された事もある。その時ははぐらかすのに一苦労だった。
もう一度だけ、とそっと濃紺の髪に手を伸ばした。――刹那。
「……っうわっ!?ボリス?」
手を、掴まれた。気付けば珍しく虚ろな目がこちらを見上げている。
「びっくりしたぁ……。なんだ、起きてたの?」
「……いや、まだ眠い」
………若干、回答文がおかしい気がするのは本当に珍しく寝ぼけているから、だろうか。内心、首を傾げたが、ここは軽くスルーする事にした。
「そっか。じゃあ、もうちょっと寝たら?」
ぼーっとしている。そんな表現がしっくり来る顔で思案しているボリスを見ながら、本当に珍しいと思う。この沈着冷静と生真面目を背中に背負って生きているような男が親友の前とはいえ、無防備な姿を晒すとは。そうそう見られるものじゃあ、無いだろう。
観察に夢中になっていた所為か、その次のボリスの行動にルシアンはついていけなかった。――唐突に増した、圧し掛かってくる重み。のそりと起き上がったボリスがルシアンを腕に閉じ込めて、再び草原に倒れこむ。いくつかの草が宙を舞ったが、そんなものは視界の端にも入らなかった。
意識を支配するのは膝から全身へと広がった彼の温度。
「うわわわわっ!ちょっ、ボリス!重い重い重いっ!重いってば!離してよぉ!」
重いのは嘘じゃない。だが、その後に続けた言葉が悪かったらしい。
「断る」
「ぐぇっ。く、苦しい…っ」
短い拒否と共に首筋に顔が埋められたと思えば、直後、抱き締める力が4割り増し。背骨が軋んだ音がしたかもしれないのは気のせいじゃないと思う。詰まった息が洩れた。
見えない青空の代わりの黒い服。精一杯、突っ張っても、びくともしない腕。彼がここまで寝ぼけるのは大変、珍しく、大変、貴重だが大変、戴けない。どうしろって言うんだ。
「ボリスってば!わかった!一緒に寝るから!!そんなにぎゅーってしたら、僕死んじゃうよ!…………って、ボリス?」
すぅ。不意に聞こえてきた寝息に彼の顔を見れば、少し前と同じ、なんて安らかな寝顔。畜生。暖かな体温に瞼が重くなる。
「……なんだよ…。さっさと寝ちゃってさ。……僕まで、疲れちゃったじゃ…ない、か……」
陽の当たる場所で、寝息がもう一つ。
「おー、いたいた。って…ありゃりゃ。こりゃ、珍しいね」
「わぁ!二人でお昼寝ですぅ!」
「ティチエル。カメラ、あったよな?」
「ありますよぉ。どうするんですかぁ、ミラお姉さん?」
にやり。
「撮っとかないと、勿体無いだろ?」
後日、一枚の写真を巡って一騒動、起こるのだが…それはまた別の話。
どーしても最後にティチ&ミラが出したかった!!写真を撮っておいて欲しかった!!
いや、もう、それだけですよ…ぶっちゃけて言うとね。
え?クロですか?ええ、そんな写真売ってたら買いますよ?即金で(笑)
これ、続きあったら読みたい人いるのかなぁ。
2007/01/08 |