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※ロゼが子ロゼになってしまったという設定でお送りしております。

 人畜無害ビーム!

 ころころころ、すてんっ。――――音にするならそんな所だ。
 実際には少々、凄まじい、痛そうな音を伴って目の前の草むらから転がり出てきた小さな青い物体を視界に入れて、ルゥリッヒは珍しい事に、その端整な顔を引き攣らせた。
「…うぅ…いたいよぉ…」
 涙が滲む、どんぐりのようなまあるい瞳は青。木の葉と小枝だらけの髪も青。触れればもちもちしているだろう滑らかな白い頬に一筋、傷を作って、それでも懸命に泣くのを堪える子供。歳は六歳…否、もう少し幼いだろうか。何にしろ、こんな涼やかで美しい色彩を、ルゥリッヒは今のところ一人しか知らない。しかし、常識的に――彼に常識が語れるのかどうかは甚だ疑問だが――考えて、これは有り得ない事だ。何故なら、ルゥリッヒの知る人物は現在食べ頃真っ盛りの十六歳で、決してこんな幼児ではない。まあ、幼児だから問題があるか、といえば、全く無いのだが。
「ねえ、君。もしかして、ロゼリュクスっていう名前だったりする?」
 いつまでも眺めているのもどうだろう。これまた珍しく常識的な発想から声をかければ、彼の存在に漸く気付いた幼子の目がぱちくりと瞬いて見上げてきた。
 二度、三度。ぱちぱち、ぱちくり。――――直後、ぱぁ、と花開く、という表現すらちゃちに思わせるくらいに彼は微笑んだ。

「おにいちゃん、ぼくのことしってるの?」

 きらきらきら。何だろう、この、十数年たった後の彼では想像すら出来ないような純粋培養な瞳は…。可愛い。可愛すぎるくらいには可愛い。もうここでぱっくりイきたいくらいに可愛い。が、邪なものには無縁な清純な雰囲気が食指を鈍らせる。さて、どうしたものか。こんなに自然に微笑を浮かべるのも、いつぶりだろう、と思う。それを壊すのも何となく勿体無い。
 地べたに座り込んだまま青い瞳を輝かせて見上げてくるロゼに視線を合わせてやるべく、しゃがんでやって――こんな姿を知り合いが見たら卒倒するだろう――、細い髪に絡んだ枝葉を一つ一つ丁寧に取り除きながら、髪を弄られる気持ちよさに目を細める小さな子を眺めるルゥリッヒは今日のところは無害でいてあげよう、と胸中で頷いた。
 立ち上がり、手を伸ばしてやる。
「ロゼの事はよーく知ってるよ。君のおじいちゃんの事もね。…安全な所まで送ってあげるからついておいで」
 迂闊な癖に、存外、警戒心だけは高い彼を安心させるように紡いだ言葉に、しかし、幼子は困ったように顔を顰めた。うろうろと視線を彷徨わせて、一向に立ち上がろうとしない。
「?どうしたの?帰りたくないの?」
 僕はそれでもいいけど。続く言葉を飲み込んだルゥリッヒに、少しだけ膝を摺り合わせて、小さく零れる彼の声。
「…おじいちゃんが…しらないひとについていっちゃだめだぞ、って…」
「ああ、なんだ。そんな事」
 この子供は迂闊な癖に本当に…ああ、もう、可愛いから許すか。原因はあの人の言葉だし。半ば何かを諦めたルゥリッヒは再び腰を沈めた。
 赤い瞳に潤んだ青い瞳が合わさる。――――置いていかないで。一人にしないで。つれてって。助けて。こんなに雄弁に語っているのに、このまま置いていくとでも思っているのだろうか。ついさっきまで笑って、輝いていた綺麗な瞳に零れそうなくらい水を溜めて、不安そうに見上げてくる子供の奇妙な意地っ張りさはこの頃には既にあったらしい。
「僕の言った事、ちゃんと聞いてた?僕は君のおじいちゃんの事も、君の事もよーく知ってるよ。だから知らない人じゃないでしょ?」
 ま、可愛いから全部許してあげるけどね、今は。思いながら、ゆっくり微笑んでやれば、小さく安堵の息が漏れる。けれど、それも一瞬。
「…ぅ…で、でも…ぼく、おにいちゃんのなまえ、しらないよ?」
 今度はそれか。なんだかあの人の教育方針を捻じ曲げてあげたくなってしまう。頭を抱えそうになった手を、苦笑を浮かべてロゼに伸ばしてやりながら、自分でも驚く程、すんなりと優しい声音が出てきたのには、ルゥリッヒ自身、胸中で自らに拍手を送った。
「僕はルゥリッヒ」
「るぅ、りっひ?」
 舌足らずに返してくる幼子の可愛い事。
「そ。ルゥリッヒ。…これで知らない人じゃないでしょ?親愛を込めて、ルゥって呼んでね」
「しんあい?」
「愛を込めて、って事」
 十数年たった後の君は全然、一回も呼んでくれないけど、今の君なら可愛い声で何度でも呼んでくれそうな気がする。案の定、期待は裏切られる事がない。そういう所は十数年たっても同じだけれど。
「じゃ、帰ろっか」
「うんっ!ルゥおにいちゃん!!」

 立ち上がって、手を繋いで、二人で笑って、そんな日も悪くない。



人畜無害SSS・ルゥリッヒの場合、でした…。
いつもより変態さを抑えたつもりですが…ちらほら危ない箇所がありますね(笑)というか、目の前に立っているルゥに気付かないロゼもかなりうっかりさんです…おじいちゃん、もうちょっと教育方針変えたほうがいいよ…(ぇ)
ルゥ×子ロゼについては他にもヤってみたいネタがあるので楽しかったです。
…ちょっとアヤシくても後悔はしていない!!(懲りてないよ!)


※ロゼが子ロゼになってしまったという設定でお送りしております。

人畜無害ビーム!

 見られている。それはもう、穴が開くんじゃないかというくらい見られている。これが睨まれているような状況ならば何か言う事も出来ただろうが、見ている本人はさっぱりそんな気はないのだろう。何故なら、自分に向かって一心に視線を送っている彼は零れるんじゃないかというくらいに丸い大きな目をぱちぱちさせて、無邪気にこちらを見つめているのだから。
 ぽん、と窓口にやって来た生徒の手帳に本日何度目かの修了の判子を押したフランチェスコはカウンターの淵に指を引っ掛けて、一生懸命、顔半分を出した青い瞳に青い髪の、どこかで見た事のある色彩を持った子供に漸く視線をやった。
 仕事の邪魔にならないように少し横にずれていてくれるのは嬉しいが、そう熱心に見つめられてはこちらも気になってしょうがない。
「何か、御用かな?」
 にっこり、笑えなくて、苦笑止まりになってしまったのはご愛嬌だ。反対のカウンターにいるフランチェスカも少々奇妙な顔をしているし、先程から学生課を訪れる生徒や教師達も奇妙な視線を向けていたから、フランチェスコが上手く笑えなくとも、誰も文句は言わない。
 そんな年上達の気苦労を知ってか知らずか、突如、学園に現われた幼子はにっこり笑って応えた。
「それ、なに?ぼくももらえる?」
「?それ?」
 どれだろう。カウンターの上を見回して…子供にやれるようなものは何一つ無い。
「そーれ!さっきのお兄ちゃんに、ぽんっ、てしてたやつ!」
 さっきのお兄ちゃんに、ぽん?一日を振り返って、ぽん、と効果音の付くような物といえば、多分、コレしかない。小さな手で懸命に指差す先と、今までの視線の先から答えを導き出した彼は丁度、手元に置いていたそれを幼子に見えるように手にとった。
「判子の事?これはちゃんとお勉強しないと貰えないんだよ」
「えー…」
 さも残念そうに肩を落とす幼子は気の毒だが、評価の判子をそうぽんぽんと押すわけにもいかない。これは仕事の道具であって、遊びの道具ではないのだから。心苦しいが、諦めてもらうより仕方ないだろう。これくらいで諦めるとは思わないが、それ程、聞き分けの無い子供のようにも見えない。――――うんうん唸る幼子を横目に、手にしたそれを台に戻そうとした、刹那。

「それ!やさしい、っていう字でしょ?」
「え?」

 ぼく、しってるよ!目をきらきらさせて言う子供の視線の先は、やはり判子。
 確かに今、幼子に見せたばかりの、フランチェスコが手にしている判子には「優」の字が大きく刻まれている。本来ならば、「優秀」の「優」だが、漢字だけ見れば「優しい」の「優」だ。――――どうやら、漢字を読めた事に対して判子を押せ、と言っているらしい。
 ずずい、と手の平まで出して、得意げにしてみせる様は可愛らしいが、学生課職員としては子供の戯れに付き合うべきか、否か。褒めて褒めて、と語る愛らしい瞳に負けそうになるフランチェスコには判断に迷う所だ。喉までならして唾を飲み込んでしまう彼などは滅多に見れないだけに注目が集まる。
 遅い助け舟が反対のカウンターからやって来たのはフランチェスコが耐え切れずに目を閉じようとした頃だった。
「判子の一つや二つ、けちけちしないで押してあげなさいよー!」
 少しだけ恨めしい視線を送ってみるが、相手はどこ吹く風。所詮、身内には陰で恐ろしいと評判の視線も通用しない。
 溜息一つ。どうやら諦めるのはこちらの方らしい。優しげな苦笑を浮かべて、フランチェスコは、しょうがないなぁ、と呟いてから、小さな白い紅葉に真っ赤な判子を、ぽん、と押してやった。
「はい。よくできました」
 お褒めの言葉もおまけにつけてやれば、きらきら、きらきら、光る瞳を尚、輝かせて子供は笑う。
「やったぁ!!」
 飛び跳ねそうな勢いで喜ばれては、先程まで判子を渋っていた自分がまるで悪い事をしていたようだ。苦笑をちょっとした自嘲の笑みに変えて、けれど、彼は直ぐにそれを打ち消した。――子供がこちらを振り返ったからだ。
「どうしたの?」
 小首を傾げて視線を合わせれば、同じように小首を傾げて微笑む子供はカウンターの向かいからまた手を伸ばして判子を掠めた。零れる言葉は愛らしい鈴の音のようにフランチェスコの耳朶を優しく撫でる。

「おにいちゃんもはんこっ!」

「えぇ…?」
 今度は、ぽかん、と口を開けた彼に掌の「優」の字を見せて、幼子は眩しく笑った。
「おにいちゃんもやさしいから、はんこ、おしてあげるっ!」
 だから、かして!思わず目を細めてしまいそうな微笑に勝てる筈も無く、その日の学生課職員の掌には真っ赤な「優」の字が燦然と輝いていたのだとか。

 ちなみに、件の幼子が戦闘技術科在籍のロゼリュクス・マイツェンだったという事を後日、知った彼は真っ赤になった顔を隠すように頭を抱えて悶えたという。
 曰く、あんなに可愛いなんて反則だ、と。



人畜無害SSS・フランチェスコの場合。
…本当ーにフランチェスコ好きだな、自分…(コラ)
フランチェスコは真面目だと思うのでたとえ子供相手でも仕事は仕事、と割り切っていそうです。フランチェスカはもっと柔軟、というか…そんな印象です。
子ロゼは判子をくれたお礼にフランチェスコとフランチェスカに「優」の判子をぽんぽん押してあげればいいよ!(ぇえ)


人畜無害ビーム!

「ほわー…」
「口を開けたままにするな。埃が入るぞ」
 ぽふっ。小さな口を大きな手で塞げば、可愛らしい声音で、もきゅっ、と言う。瞬時に膨らんだ頬をほんのり赤くさせて睨んでくる、小さくなってしまったロゼが可愛くてしょうがない、なんて、この後、元に戻るだろう彼にはきっと言えない。言えば、最後、得意の奇妙な勘違いを起こして部屋に籠もってしまうだろう。
 何の因果か、外見も中身も四歳児に縮んでしまったロゼを抱え上げながら、ユンは些か深い溜息をつく。
 今朝の騒動と言ったら凄かった。それはもう、騒動が絶えないこのアトリエの、指三本の内に入るくらい凄かった。篭手初めにリリアが鼻血を垂らし、慌てたウィムが紅茶のポットを落とす。流石のエトも呆気に取られて木箱から落ちれば、大道芸を見ていたぷによが驚いて二郎から落ちた。知らない光景に怯えて部屋で泣いていたロゼを漸く宥めてアトリエに連れてきたユンはと言えば、小さな手を繋いだまま呆然を一連の惨事を見届けているしかなかった。他にどうすれば良かったのか、全く思いつかなかっただけに、恐らく、自分の動揺もそれくらいに凄かったのだろうと思う。
「ふわー…」
「だから、口を開けたままにするな。バイキンが入るぞ」
 ぽふっ。放した傍からまた開けっ放しになる口をまた塞ぐ。子供はこの視点の高さが珍しいらしい。…もう長い事、この視点のユンにはさっぱりその楽しさが分らないが。
 暫く無意味なそれを繰り返して、ふと、ロゼの視線が自分を向いている事に気づいた。だが、そのくりくりとした青い瞳はユンの茜色の瞳を通り越しているような気がする。事実、ユンが視線を向けてもロゼのそれは絡む事はなかったし、けれど、だからと言って、ユンではないものを見ている風でもないようだ。自分では見えない視線の先を点線矢印を追うかのように追えども、子供が熱心に見続けるそれを捉える事は出来なかった。
「…ロゼ、何を見ているんだ?」
 頭髪の色が珍しいというわけでもないだろうに、ロゼの見つめるそこは確かに自分の頭の辺りで…その辺りに何か変わったものでもあったかと、いつもは気にも留めない自分の容姿に思いを馳せる。
 思い悩む額に、ふんわりと温もり。
「つの」
「は?角?」
 角。確かにある。成る程、人間には無いマナの角が子供興味を誘ったらしい。
「うん。さわっても、いい?」
「引っ張らないならな」
 漸く、合点のいったユンの髪に小さな指を滑らせながら、少し眉根を寄せて幼子が恐る恐る訊いてくるのに微笑みを返してやる。いつもこれくらい素直に言ってくれればいいのに、なんて、やっぱり言えない。
 ユンにお許しを貰って、ぱっ、と顔を輝かせたロゼが小さな白い手を伸ばすのに時間はかからなかった。一度、許されれば躊躇いが無いのは子供ならでは、といった所か。しかし、遠慮が無いようでいて、そっと労わるように優しく触れてくるのは彼がしっかりユンの言葉を聞いて、痛くないようにしようとしているからだろう。
 形を辿りながら、付け根から先へ。つぅ、と指先で触れて、次に全体を撫でる。くすぐったささえ感じる触れ方に思わず笑いそうになりながら好きなようにさせるユンの顔は緩みっぱなしだ。ここに彼の娘がいたならば、写真の一枚でも撮っていたかもしれない。
 ふと、その感触に――――変化。

「ちゅ」

「っな!?」
 今まで触れていた柔らかな手とは違う、綿菓子のような感触。ユンの頭に首を伸ばして、そぅっと触れたそれは確かにロゼの小さな唇で…青い瞳を細めて殊更、綺麗に愛らしく笑う彼の、花弁のようなそれに思わず目線が向かう。
 はにかむように笑う彼の唇から鈴の音が零れた。
「えへへ、ありがとうのしるしっ」
 これが戦闘なら完璧ノックアウトだ。
 言葉に出来ない何かを伝えたくて、ユンは抱えた小さな身体を抱き締めた。



人畜無害SSS・ユンの場合、でした よ …。
なんだって、このカップルは子になってもバカップルなんだ…っ!!
というか、角を触るロゼ、というのは一度やってみたかったので、16歳でまたやろうかと密かに企んでおります…。

2009/02/05