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*時代劇調の妄想でお送りしております。(注:タイトル)

 結いもせず、無造作に後ろに流される紺藍よりも勝色というに近い髪色はこの天下のアノマラドでは珍しい。――毎日、飽きもせず注がれる好奇の視線に溜息をつきながら、ボリスは濃藍の合わせを正した。
 端整な顔つきを買われて雇い主からは役につかないかと持ちかけられた事もあったが、彼としては手に馴染んだ剣を手放し、筆に持ち替える事など到底出来る事だとは思わない。勿論、自分がそこまで不器用だとは思わないが、生き抜く事の他に目的がある以上、用心棒という身分は相応に身軽なものだった。
 剣を抱えて茶屋の隅に掛けたボリスを知った声が叩いたのは、丁度、看板娘のビエタに玉露を一杯頼んだ時だ。
「おう。何だ、サボリか?」
「バカ。貴方じゃ無いんだから、そんな事あるわけないでしょう」
 勝手知ったるなんとやら。軽く手を上げて挨拶を済ませた二人が隣に席を取るのを見ながらボリスはまた溜息をついた。
「シベリン……ナヤトレイ…」
 茶鼠の小袖に一つに纏めた天を舐める炎のような赤い髪。今は鞘に収まった身の丈程の槍がシベリンと呼ばれた優男の力量を示している。傍に控えた女も然り。長く一つに纏められた銀鼠の髪に短く仕立てた小袖から伸びる白い脚を上に辿れば腰に一対の小太刀を佩いているのを目に出来た。――細身だが、アノマラド三大勢力が一つ「影屋」の精鋭である。
「阿櫛屋の仕事はどうしたんだ?暇を出された訳じゃないだろ?」
「貴方こそが影屋から暇を出されそうね」
「……冗談キツいだろうよ。レイ……。まあ、それは置いといてだな」
 不意にへたれた優男が裏家業を担う男の顔になる。潜めた声は街の喧騒と相反して隔離された部屋に閉じ込められたようだ。
「華瑠都屋のお姫様が消えちまったって話だ」
「聞いた」
 短く返して、ボリスは剣の柄を指で辿った。こんな話は鍔が鳴る。
 華瑠都屋。――このナルビクに拠点を置くアノマラド一の商屋だ。武家も殿も姫君も頭を下げて敷居を跨ぐと謳われる家の隠しの姫が当主、ドメリン・カルツの亡き後に忽然と姿を消した。身体が弱いと表舞台に出なかった故に誰も目にした事が無かったカルツ家のお嬢様。
「こっちまで飛んでくる話じゃないだろう」
 たかが、お貴族様の息女が消えたくらいで騒ぐ事でもない。何より、華瑠都屋自体、当主亡き後は彼の弟――娘にとっては伯父に当たる――が店を仕切っているのだと聞いている。円満に事が運んでいるなら傭兵気質の阿櫛屋や影屋の出番ではないだろう。
 しかし、頬杖をついたボリスの前で指を振ったシベリンは不敵に笑った。
「それが、だ。どうやらこっちに飛んできそうだぜ」
「…どういう事だ」
「遊郭が騒がしいのよ」
 答えたのはみたらしを銜えたナヤトレイ。無表情な双眸が道行く町人達を流して見つめている。
「それ以上は、紅屋の太夫に聞いてみたら?」

 そうそう教えてはくれないと思うけど。――三本目のみたらしを銜えたナヤトレイはそれ以上口を開く事は無かった。



何が書きたかったってナヤトレイがみたらし銜えてるのが書きたかっただけさ…。
初シベ・ナヤがこれで良いのか…クロさんよ…。書いてる本人、楽しかったですが。
因みに心の残りは看板娘のおビエちゃん(死)が書けなかった事です。


*時代劇調の妄想でお送りしております。

「へぇ。ちょいとばっかり楽しそうじゃないか」
 煙管の煙を、ふう、と吹いて太夫は肘掛に寄りかかった。傍らの娘が銚子から猪口に茶を注ぎながら――教育上、酒を注がせるのは太夫の性に合わなかった――言葉を返す。
 読み物机に広げられた、こまい字の羅列が彼女達の話の種だった。
「でね。私のお友達をイジメるから、ちょっとお仕置きして欲しいのですぅ」
 行灯の明かりに光る金の髪を揺らして微笑む彼女に翠の瞳を細めて仕方なさそうに太夫は返した。
「それで、コレをパチッて来ちまったってのかい?おテチ?」
 こつん、と金の煙管が書物を叩く。可愛らしく小さな舌を出して、おテチ――ティチエルは笑った。
「えへへ。ごめんなさぁい。ミラお姐さん」
 でも、偉いでしょう?丸焦げにはしなかったの。そう言う綿菓子のような声音が泣く子も黙る紅屋、太夫の心を溶かす。可愛い妹のような存在には天下の太夫も、おいそれと怒れない。しかし、それが紅屋の番頭、小姓たちには効かないのだから…やはり太夫は太夫をはるだけの器量があるのだ。
 下々のものには厳しく。亡き祖父の遺言の通りに。ミラにはそれが誇りだ。
「しょうの無い子だねぇ。…まあ、いい。ここいらでお上に恩を売っとくのも悪かない」
 打掛を翻して立ち上がる姿は雄々しくも咲き乱れる華の如く。

「野郎ども!紅屋の身内に手ぇ出すとどうなるのか、思い知らせてやんな!」
「ですー!」

 ここは花街、宵の町。裏の家業の塒の町。



これが一番楽しかったですよ、っと。太夫・ミラ姐さんとそのお付・おテチ(笑)愛称は「おテッちゃん」でお願いします(おい)
ミラ姐さんは花街の裏方衆を纏め上げる女頭領ならかっこいいさ。
……イスピンはきっと「おイっちゃん」とか「おイス」だな…。
でも、マキシミンが「おイス!」とか呼んだらクロは間違いなく噴く(力説)


*時代劇調の妄想でお送りしております。

 くい。袖を引かれてふり返れば、蜜柑色の小袖にお団子銜えた可愛い子。
「ねぇ。紅屋ってどこか知ってる?」
 探してるんだ。蜂蜜色の金の髪を揺らし、藍の瞳をくりくりさせて問うてくる様は牡丹の華も落ちる程可愛らしいが、団子のみたらしが指に垂れている事の方が至極、気になる。
「ねぇってば。お兄さん?」
 おぅい。呆けていれば、今度はこちらの目の高さまで団子を持ってきて振る。――みたらしが飛んだらどうする!ボリスは慌てて我に返ったが、時既に遅し。つるりと白い指先から滑った串はそのまま重力のままに砂利道にぽとり。駄目押しのように転がって、あっという間に砂まみれ。
 訪れたのは除夜の鐘より重い間と、悲痛な叫びだった。
「あ……あぁぁぁーーーーー!!!」
 きらきらと輝いていた瑠璃の目にじわりじわりと涙の気配。
「僕の…お団子…」
「え…あ……お、俺の所為か…?」
 いやいや、違うだろう。自答しつつも溢れて零れだした涙には言い訳も通じない。
「…折角、貰った、のに…」
 まずい。まずいぞ。注目を集め始めている。こんな往来で、しかもこんな美少女――少年か?――を泣かせていれば注目されない訳が無い。何に向けてのものか分からない覚悟を決めて、ボリスは懐から手拭を取り出した。
「わかった。俺が悪かった。悪かったから泣くな…。団子を買ってやるから…」
 涙を拭きつつ手にみたらしがついている事も教えてやって――それを勿体無さそうにぺろりと舐める姿のなんて可愛い事!――茶屋への道を引き返しながら、また泣き出さないように声を掛ける。
 嬉しそうに横に並ぶ可愛い子。鳴いた鴉はもう笑っていた。
「お前、名前は?」
「む。人に名前を聞く時は自分から名乗るものだってお父様が言ってたよ」
 どこのお貴族様だ。この子供は。――思いながら、それもそうだと判断し直す。
「…ボリス・ジンネマン」
「えへへ。ボリスかぁ」
 繰り返して確認する姿は幼いが、背が自分とそう変わらない事から相応の歳だろう。よくよく見れば女物を着ていても男だという事がわかる。ぱっと見で分からないのは彼が小柄で細身なのと、そこらの遊女よりも可愛らしい顔立ちの所為だ。
 手に持つ剣の鍔が鳴る。
「こっちは名乗ったぞ。次はそっちだ」
 急かせば、ぷぅ、と膨れて不満顔。
「わかってるよ!」
 蜜柑の小袖を翻して笑う彼を見ながら、茶屋にシベリン達が居ない事を少しだけ願った。

「僕はルシアン・カルツ!宜しくね!」

 ぴたりと歩が止まる。
 なんてことだ。――巷で噂の隠しの姫がこんな所にいるなんて!



これの前の場面(シベナヤとの茶屋の話)を読んでないと全く分からないSS。
華瑠都屋のお姫様はルシアンでしたとさ、めでたくないめでたくない。とりあえず、ルシアンに可愛い着物着せてみたらし銜えさせたので満足でした!!(力説)
やってみてわかったが……この設定、きついなぁ。
ちなみに、阿櫛(あくし)屋はアクシピターの事です。影屋は言わずもがなS&A。紅屋は紅い射手。ジケルは遊郭を表から仕切る人だと良いな…(ジケミラ派)でも、ティチエルには勝て無いと良い(笑)
難産で無理があっても妄想してるときはごっつ楽しかったです(死)
でも連載とかでやったら世界が広すぎて収集付かなくなりそうだな。

2007/03/13