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眠りの国

 マキシミンは頭を抱えた。それはもう、盛大に。加えて、その顔は呆れを通り越して悲壮だ。――まさか、こんな事になるとは思わなかった。がっしりと首に巻きついた腕を外そうともがきながら、それでも、ある意味役得かもしれないと一ミリ程の喜びを感じている辺り、頭が必滅の地に辿り着いてしまっているのかもしれない。
 認めてしまえば、引き剥がすのを諦めた腕が身体に密着する温もりを抱き締めるのに、そう時間は掛からなかった。
「おーい。離せよお坊ちゃま」
 こんな所を見つかったら護衛に八つ裂きどころか微塵切りにされる。いやいや、微塵すら残らないかも。
「や〜だぁ〜」
 洒落にならない反語を呟いて、自分で震え上がったマキシミンにしがみ付いたままのルシアンがふるふると金糸を揺らして首を振る。拒否の意を表しているつもりだろうが、密着しすぎている所為で擦り寄っているようにも見えた。事実、肩口に火照った頬が押し付けられている所為で肩が熱くて敵わない。
 事の始まりはマキシミンがお遊びでルシアンに酒を飲ませた事に起因していた。――つまり、ルシアンは現在、酔っ払い。状態異常のステータスを書くなら「酒気帯び」と出たかもしれない。
 さわさわと揺れた髪が頬を擽る。
「や〜だぁ〜、じゃねぇよ。お前の怖い護衛に見つかったら俺がぶっ殺されちまうだろうが、この酔っ払いめ」
「酔っ払ってませーん」
「酔っ払いは皆、そう言うんだよ、酔っ払い」
 言いながら、気持ちいい程度に入った酒が伝わる温かさと共に眠気をつれてくるのを、身体の妙な浮遊感で感じる。
「あー、くそ。眠ぃ」
「うー」
 生返事に視線を落してみれば、相手は既に夢の世界に旅立つところ。
「あ。てめぇ、勝手に寝てんじゃねぇ、こら…」
 力の無い罵倒を最後に、彼の意識もまた旅立った。――――抱き締めた腕はそのままで。


マキルシ…というより「なんだかんだ甘い兄と甘えん坊の弟」のようですね…。
ルシは酔ったら可愛いはずだ…!!
このあと誰かに写真を撮られて、それをみたボリスにマキシミンが八つ裂きにされるべく追いかけられると良い(ぇぇ)


キス・オブ・ファイヤー

「僕はお酒を飲んでまーーーーす!!!」
 待って待って待って待って、ようやく帰ってきたルシアンは酔っ払いだった。

「ルシアン、寝てくれ」
「いやー。ボリスもぉ」
「いや、だから、俺も自分のベッドでちゃんと寝るから」
 だから、お前も自分のベッドでちゃんと寝てくれ。言おうとした唇が、柔らかな相手のそれに塞がれる。珍しい、ルシアンからの口付け。一度だけゆっくりと重ねなおして離れたそれを舌で追って軽く舐めれば、意識を包むような酒の香りがした。
「ねぇ。ちゅーしよ」
 舌足らずな甘い声。熱に浮いた青い双眸が映すのが他でもない自分なのに、優越感。
 己の唇を舐めることで急激に湧き上がる乾きをかわした。
「いけない遊びだな」
 何処で飲んで来たかは知らないが、飲ませた相手を叩きのめすのに加えて、当時のルシアンの行動についても詳しく聞かなくてはならない。こんな事を自分以外の奴にしているなら…相手を殺して、彼を鳥篭に閉じ込めてしまうのも手だ。
 ぺろりと首筋を舐めて、そのまま吸い付いてくるボリスの頭を抱き締める手の、なんて熱い熱。
「遊びじゃないもん」
「遊びじゃないなら、手加減が出来ないな」
 本気なら、いくらでも傷物に出来る。疼く身体を押さえる必要も無い。

 初めの傷は、噛み付くような口付け。


題名はご存知の方も多いはず、同名のカクテルより。
ボリルシについては…ボリスが只管腹黒を通しているのがモノイメ流(違)
お酒を飲んだルシアンの舌足らず具合は絶対に可愛いはずさ…!!全く、題名を生かせていないのが苦しいところですね…。


思い出せない昨日の事、君に言えない昨日の事。

 そうっと相方を見上げて…ぱっと戻す。先程からルシアンが行っている行為はこれで8回目だ。言いたい事はどんな事であろうと口に出す彼にしては至極、珍しく…だからボリスは何故か朝から銅鑼を鳴らしたように痛む頭を抱えながら、その原因を知る事も兼ねて昨夜、何があったのか聞いてみた。――だけ、だった筈だ。
 かあ、と瞬時に赤くなった頬を隠しもしないで見上げてくるルシアンの青い瞳が驚愕に見開かれるのを不思議な思いで見た。
「お、覚えてないの…?」
 なんだろう。この切迫した口調。
「ああ。なんだか、こう、頭が痛いんだが…それも昨日何かあったからなのか?」
 問えば、また赤くなる顔。今度は耳まで赤みが侵食している。
「何か、って……あう…」
 この反応は…知っている。間違いなく、何かを。それも核心そのものを。しかも彼自身も一枚噛んでいるようだ。――持ち前の洞察力で判断を下したボリスは尋問に掛かった。兎に角、この頭痛をどうにかしたかったのもあるが、それ以上にルシアンが赤面する何かが何なのかに興味があった。
 何故か羞恥で潤んでいる双眸がまた盗み見るように見上げて、瞬時に俯く。こんな状態でなければあまりの可愛さに抱き締めて放さなかったかもしれない。
「ルシアン、何か知っているなら教えてくれ。出来れば詳細に」
「あ、あう…しょーさい、に…?」
「そう。詳細に」
 押せば、落ちる。――ボリスの勘がそう言っていた。
「ルシアン」
「あぅ…」
 もう少し。
「ルシアン」
「あうぅ…」
 あと一押し。
「ルシアン…」
「あう、ぅ…」
 これで止めだ。
「ルシ…」
「うわぁぁぁぁぁぁ!!ごめん!!ボリス!言えない!!!」
「あ!ルシアン!!」
 止める間も無く、それこそ疾風の如くに駆けて部屋を出て行ってしまったルシアンをボリスは見送る事しか出来なかった。

 だから、廊下の少し先で止まった真っ赤な顔の彼の言葉を聞くことも無い。

「い、言える訳無いよ!昨日、ボリスが僕に何をしたかなんて!!」



ボリスは二日酔いです。飲酒は昨夜の事ですが…一体、何をしたんでしょうか?
え?聞くのは野暮だって?……お客さーん、深読みは大歓迎ですよー(邪笑)
……しかし…この拍手が一年前のものだなんて…どんだけ再録をサボっているのかが丸分かりですね…。

2007/04/24