メイドのお仕事
「お帰りなさい!ボリ…じゃなかった。ご主人様!」
そんな事を言われて、固まらない方がおかしい。
短い黒のワンピースから覗く、白い脚が眩しい。常時、隠されているそこは禁欲的な雰囲気を感じさせ…だからこその情欲を煽る。
無理矢理に視線を外せば見えるのは動くたびにひらひらのフリルが揺れる白いエプロン。ベースの黒とのコントラストがまた眩しい。もう少し上に目を移せば細い首に細いベルベットの黒リボン。緩く蝶結びにされたそれが貞操を護る薄っぺらな壊れかけの鍵のような気がしてならない。…そんな事を考えている辺り、自分は既に何か間違っているんだろう。
後ろ手にドアを閉めたまま、呆然と立ち竦むボリスに向かい、止めの様にヘッドドレスが飾られた金髪を揺らして小首を傾げたルシアンは微笑んだ。
「?どうしたの?」
「…あ、いや……その…」
「……やっぱり、変?」
不躾なほどの視線に染まる頬を俯いて隠す様の、言葉にし難い愛らしさを、どう言ってくれよう。お世辞にも口上手ではない自分では到底、気の聞いた言葉は出てきそうに無い。無いのだが…無言をどう受け取ったのか、眉を寄せて、みるみる瞳に溜まっていく涙を見てしまえば四の五の言っていられない。こんな所で、こんな状態で泣かれでもしたら、寧ろ、啼かせたくなる。
今にも決壊しそうな半分壊れかけの理性のダムを土嚢で補強しつつ、ボリスはメイド服に身を包む彼を抱き締めた。
洩れかけた嗚咽を驚きで飲み込んだ身体が跳ねる。
「……ボリス?」
指が無意識に辿る、ルシアンの細い腰の線。纏める大きなリボンがまた微妙に邪魔だ。
「変じゃない。その…少し驚いただけで…」
似合ってる。そう囁く唇が耳朶を噛み、空いた手は滑らかな太股に触れる。――撫でれば、腕を擽るスカートの布地が、あたかも自分が背徳を犯しているような気にさせた。
「これは、どこで?」
この後、どんな展開になるにしても、これだけは聞き出さなくては。大体の予想はつくが…あまり想像したくない。
ボリスの微かな落胆を他所に別の意味で頬を紅潮させ始めたルシアンは息も絶え絶えに答えた。
「ん…っ、と、ね……ティチエルがね、これ着てボリスにご奉仕したら、ボリスが喜ぶよ、って…ぁっ、…くれたんだよ」
やっぱり…。感謝していいのか、見返りを検討した方がいいのか、はたまた、ルシアンが無自覚に色気のスキルを増やしていくのをこのまま黙っていていいのか…考えながらも手だけは止まらないボリスはどう寝返ってもティチエルの策略に捕まってしまっているとしか言えなかった。
「……まあ、いいか」
とりあえず、ここは据え膳なんとやら。という事にする。
するりとスカートの中の双丘を辿り、薄い下着に手を掛けた。刹那。
「…ぁ、や、んっ…脱がしちゃだめぇ…!」
気付いて、慌てて叫んだルシアンの声に手が止まる。
「ルシアン?」
名を呼べば、火のついた身体で抱きつく彼の、蕩けた甘い微笑みが返った。
「あのね、今日は僕がいっぱいご奉仕してあげるっ」
何かと物議を醸した(?)お仕事シリーズ(笑)
私の変態カミングアウト、決定打でした…この前まではしっかりすっきりマトモな腐女子だったはずなのに…!!(えぇえ)
でも、ほら、うちのルシはINT1仕様だからボリスの為ならメイドくらい…(理由にならない)
看護師のお仕事
熱なんて、何年ぶりに出したんだろうか。褥に力なく横たわりながら、ボリスは溜息をついた。
風邪だと気付いたのは三日ほど前だったと思う。軽い咳だけだった筈で、だからこんなに悪化するとは思わなかった。勿論、悪化させない為に就寝を早めたり等はしていたが、それが甘かったのだろう。気付いた今朝は、既に動けなかった。――38度。立派な高熱だ。これでは日々、ルシアンに自己管理をしろ、と言っている自分の面目が立たない。
ばたばたばた。噂をすれば影。忙しない足音をつれているのは、今し方、ボリスの為に粥を作りに行ったルシアンだろう。――毎度毎度、アレンに廊下は走るなと言われているのに懲りない奴だ。思いながら、一言くらいは言わねば、と重い上体を持ち上げる。
次の瞬間、開いた扉から飛び込んできたのは文字通り、金髪の天使だった。
「ボリスー!ただいま!お粥持ってきたよー!」
「……っな!!」
とりあえず、詰まった。そして、とりあえず、思う。―――その格好はなんだ、と。
「ボリス?」
ぎしり。粥の器を傍に置いて四つん這いでベッドに乗り上げ、ボリスを跨いだルシアンが顔を寄せる。こつりと額をくっつけて、目を閉じ…
「まだ、熱下がってないね」
ちょっと上がった?言われて、また顔に熱が集まったが知らぬふりをして…四つん這いで跨いだ姿勢のままのルシアンに問いかけた。
「…その格好は…どうしたんだ?」
自分は今、きっと、最高に情けない顔をしているに違いない。人生で間違いなく三本指には入る情けなさだ。加えて押し寄せてくる浅ましい欲望に、ただでさえ熱い身体に火が点る。
視線が泳ぎ、けれど耳は声を逃さない。葛藤に溺れるボリスにルシアンは笑って言った。
「ティチエルに貰ったんだ!これで看病すれば、すぐ元気になるよって!」
聞きながら…ああ、畜生、なんて思いながら、定まらない視線が、丈の短いピンクの看護師服の線を辿る。頭には同じ色の淡い桃色看護師帽。胸にはご丁寧に「るしあん・かるつ」と書かれたネームプレート――うっかりココに萌えたのは自分だけでは無いはずだ――。ほんのり色づいた半開きの瑞々しい唇にはリップでも塗ってあるのかもしれない。全体的にぴたりとした感のある制服のミニスカートから伸びる脚はささやかなレースをあしらったガーターベルトで止められた、腿までの白いストッキングに包まれている。サイズの合わないそれに締め付けられた腿の、肉欲的な変形が今の体勢と相俟って危うい色気を醸していた。
ふいに、ずい、と顔を寄せて体勢を変えたルシアンの柔らかな尻がボリスの腰に乗る。
「っ!おい!こら、俺は病人だぞ!?」
今の状態で煽られたら一溜りも無い。熱で浮かされている所為で理性が全く利かないのだから。
慌てたボリスの手を身じろぎで制して――動くたびに柔らかさが熱を煽って仕方ない――、ルシアンは当初の目的をスプーンに乗せて差し出した。
「一生懸命、看病するから、早く元気になってね!」
幸運の象徴、銀のスプーンで湯気を立てる暖かな粥をボリスはこんなに憎んだ事は無かったかもしれない。
「はい、あーん」
食べてしまいたいのは目の前のピンクの天使の方だ!
後にマナケミアでもほぼ同じパターンでヤりました…看護婦さん。……大好きなんだよ!!ああ!そうさ!!大好きさ!!ミニスカナース!!(開き直り)
ここではディープな話(ディープって何だ…)が出来ないのが些か残念(?)ですが…ひらがな名札プレートは譲れません(断言)
でも、ほら、ボリスの為ならルシはアブナイ看護婦さんくらい…(更に理由にならない)
修道女のお仕事
「神様なんて信じないけど、ボリスだったら信じるよ」
そう言った彼はシスターヴェールを被り、修道女の服まで着ていた。勿論、仕事で、だ。
それを終えた今は閑散とした教会のステンドグラスに二人で向き合っていた。
「俺は誰も信じないな」
何度裏切られたか知れない自己の経歴から、ボリスは他人を信じる事を自ら律している。神を信じるか否かについては、今更、言うまでも無く、否だ。形の無いものに助けを求めるくらいなら、自己で道を開く事に尽力すればいい。
反対にルシアンは無条件に他人を信用する節があった。良く言えば、博愛だが、悪く言えば他力本願。中間で言えば八方美人。けれど、信じたものを裏切りはしない。その点で言えば、ボリスはルシアンを信じていたといえる。
濃紺のヴェールを揺らしたルシアンがボリスの胸に額を置くのを、彼はその肩を抱く事で応えた。
「僕は信じてるよ。どんな事があってもボリスを信じるよ。助けに行くよ。傍にいるよ。寒かったら暖めるよ。寂しかったら手を握るよ。…辛かったら、抱き締めるよ」
誓いのように、契約のように、淡々とした穏やかさを以って言葉を紡ぐ。
「それなら俺は、お前の為に死なないよ」
返った笑みは、ステンドグラスの光に白く輝いた。
「嘘、つかないでね」
――――信じてるよ。ずっと。
涙で光る双眸が、彼を本物の修道女に見せて…ああ、今すぐその禁欲の修道服を剥いで神様とやらに叩きつけてやりたいと思った。
一番、難産で一番マトモ(?)だった修道女のお仕事…。
まあ、自キャラのルシの主装備がシスターヴェールだった事に起因している訳ですが…なんだかまともすぎてつまらなかっ…ぅごふんごふんっ!
ボリルシは基本、こんな関係だと思っているクロですが…まともに二人の関係を書いたのは初めてですね!(おい)ああ…レギュラーSSでも書いた事があった気がしますが…そのほかのあまりのアレな濃さに薄れてしまっていますね(笑)
…どっちにしろ、お仕事シリーズ以降、当家はマニアック街道の側溝をこそこそ歩んでいってしまう訳ですが(遠い眼)
って……コレ一年前の拍手!?(←今気付いた)
2007/07/01 |