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 それは神域だと思う。

体育のお時間

 つくづく彼は可愛いと思うが、今の装いは目に毒だ。
 汗で背に張り付いた白いシャツから透けて見える淡い肌。膝上から測るよりも股下から測る方が早い、短い丈のショートパンツ。裾から伸びる程好い肉付きの――寧ろ、多少、痩せた感があると思う――白い脚が陽光を艶で弾くのが眩しい。玉の汗がつぅ、と伝う首筋に貼り付く湿った銀の髪が艶を生み、薄く開いた唇が熱い吐息を空気に散らす。
 体操服。ただの単純な授業着がこんなにも危うく映るのは密かに愛して止まない彼が着ているからに他ならない。――視線の先で佇むヴェインの姿を髪の一筋から爪の先まで見つめながら、青いジャージに身を包んだロクシスは校内へと続く階段に腰を据えていた。
 面倒だと心底、鬱陶しかった合同授業がこんなにも良いものだと思った日も無いだろう。今し方、走り込みを終えてきたヴェインの姿をまた上から細かに見ながら、息をつき、眼鏡を摺り上げる。
 しなやかに動き、柔らかさを見せる身体。少しサイズが小さいんじゃないかと疑わせるぴたりとした体操着。身体をほぐすのに腕を上げる度、短めの上衣から時折、日に焼けていない白い脇腹がちらりと見える。
 次に張りのある双丘に目を移そうとして――彼は止まった。
 集中する視界に映るのはそっと忍ぶように短い丈の裾に伸ばされる白い指先。少し、裾を捲って中に指を入れ、厚い布地の下で更に密かな蕾を隠す薄手の白い布の端を人差し指で引っ張る。腰から、後方、下へかけてそのまま滑る指。引き上げられて開いた隙間から柔らかな肉の艶が見える。指が終点へ辿り着く刹那にちらりと見えてしまった、双丘と腿の境の丸みのある僅かな段差が触れたい衝動を掻き立てて――――その瞬間、ロクシスは自分のジャージを脱いで走った。
「うわっ。え、何?ロクシス?」
 後ろから飛びつく勢いでヴェインの細腰を捕らえ、脱いだ上着で彼の腰から下を隠すように巻く。その手際はカードを捌く時のように驚くほど良かったと、アトリエの仲間がいたなら、そう呟いていたかもしれない。呆気に取られて、それ以上、声を上げる事を忘れたヴェインが首を傾げて振り向く頃には、ロクシスは後ろから腰を抱き込みながら彼の肩に顎を置いて一息ついていた。
「えー、と…どうしたの?」
 これじゃあ、走れないよ?前でがっちりと組まれた手にゆっくり手を添えるヴェインに小声の叱責が飛ぶ。
「君は、何をしていたんだっ!」
 焦燥を滲ませた、荒い口調に戸惑いながらヴェインは言葉を返した。
「え、え?……その…ぱんつ…ずれちゃって…直してたんだけど…」
 そこまで口にして、続きが喉の奥で止まる。暫く背後のロクシスに視線を合わせてぱちくりと目を瞬かせていたヴェインの頬が、直後、花開くように、ぽっ、と薔薇に染まった。
「…み、見てたの…!?」
「………見てない。見えそう、だった…」
 咄嗟の嘘。ここで正直に「見た」などと言ったら泣いてしまうに違いない。思わず逸らしてしまった目がいかにも怪しいが、意外な所で鈍感な彼は多分、気付かないだろう。
 少し上がった彼の体温が心地良い。視界に映る、ぱくぱくと口を金魚のように開いてうろたえる姿は非常に可愛いが、まるで襲ってくれと言っているようなものだ。これで一人と一匹暮らしだったというのだから、悪い蟲にあれやこれやされていないかと心配するのも道理だと思う。まあ、その辺りはあの黒猫の事。手は打ってあるのだろう。
 自分ですら、そういう意味で容易に近づけない虚しさを再確認して、ロクシスは溜息をついた。
「とにかく…こんな所でそんな事をするな」
「…?なんで?」
 良い意味で目の保養だが、肉体的、精神的には非常に毒だ。今も暴れる本能を抑えるのに理性を総動員している。…とは、口が裂けても言えない。それは一重に彼の自分に対する印象を崩したくないからに他ならないが…。
「なんでも、だ。直すなら誰も居ない所でやってくれ…」

 とりあえず、向こうの方で鼻血を垂らして倒れている奴等には記憶が飛ぶまでコロナドライブを見舞ってやろうと心に決めるロクシスだった。


調子に乗ってやらかした一般教科シリーズその2。
体操服ヴェインを書くのがちょう楽しかったです。体操服は浪漫だ!!(…)
そうっと指先でおぱんつのずれを直すのとか、萌えません か ?(訊くな!!)

保健のお時間

「ねぇ。僕らじゃ、子供って出来ないのかなぁ」
「…は?」
 いつでも可愛い彼が、おもむろに酷く可愛い事を言うのは意外と日常茶飯事で…けれど、これには流石のロクシスも眼鏡を摺り落として間抜けな応えを返してしまった。
 見れば、ソファに座って分厚い本を膝に広げていたヴェインが自らの腹部をさすって物憂げに眉間を寄せている。
 生物学的に男性同士で子が生まれる事はあり得ない。ヴェインとてそれを知らない筈は無いが…。
「何故、そんな事を?」
 問えば、うーん、と唸って、また柔らかな手つきで腹部をさする。
 不埒な話だが、ヴェインと身体を重ねた事は一度や二度ではない。寧ろ、数えるのも野暮なくらいには日々、愛している。最近は生活に支障が出るというヴェイン側の理由で理不尽なお預けを食らっているのが少々、不満だが、待つほど濃密にならざるを得ないその時を楽しみにしてもいた。
 子供が云々という話は全くもって考えた事も無かったが、もしも彼にその能力があったなら、一人や二人と言わず、四人か五人でも既に孕んでいるだろう。
 冷静に分析をすれど、裏を返せば、そうなってもおかしくない程度に毎夜、中に注いでいるという訳で…その分、彼に負担をかけてもいる訳で…。それでも、今日くらいはもう少しゆっくり抱いてやろう、と考える辺り、ロクシスは全く反省していない。それがまたヴェインの頬を羞恥で染めさせて怒らせる原因になっているのだが、今後も気付く予定は微塵も無い。
 思考を巡らせるロクシスを他所に一通り、可愛く唸ったヴェインは仄かに染めた頬を隠すように俯いた。
「…笑わない?」
「笑うような事なのか?」
 問いを被せてソファの前に跪いたロクシスの双眸が、視線だけで彼から逃げるヴェインを覗き込む。
 足元で答えを待つ人はきっと逃がしてくれないだろう。それを知っているからこそ、ヴェインの視線はうろうろ逃げる。言葉を捜して旅に出る。それを追いかける深い赤茶の瞳。どれ程、抵抗しても、やっぱり簡単に捕まってしまうのが悔しい。
「う……あ、あのね…」
 青い目を羞恥で潤ませて更に頬を赤らめる。――こんな事を言って、困らなければいいのだけど…。
「ロクシスの赤ちゃん…欲しいな、って…」
 きゅう、と腹部に添えられた手に小さく力が入るのを間近で見ながら、ロクシスは目を僅かに見開いた。
 赤ちゃんが欲しい。誰が?ヴェインが。誰の?私の。――――背後に雷が走る勢いで言葉を受け止めた瞬間、彼の中の是非の天秤はがつんと音を立てて傾いた。
「ヴェイン!」
 名を呼び、両手で細い手を取るロクシスの真剣な眼差しがヴェインを射抜く。

「安心しろ。錬金術に不可能はない!」

 ヴェインが銀髪の自分似の子と金髪の夫似の子をその腕に抱くのも、そう遠い未来ではないかもしれない。


保健のお時間、と題した、幸せ家族計画(笑)見所は自分のおなかをさすりながらちょっともじもじしつつ「子供が欲しい」と言うヴェインです(断言)
実はこの後、ロクヴェイの子供が活躍(?)するロクヴェイチルドレンネタに発展するわけですが…ヴェイン似の娘とか絶対に可愛いと思うんだ…!!…で、ロクシス似の子は…必然的にヘタレ要素が遺伝しているんじゃないかと思います。


全校集会のお時間:コトの始まり。

「……ぁ…」
 小さな声を上げ、隣で妙な身動ぎをする彼に気付いたのは、校長の糞長い話が中盤に差し掛かった頃だった。
 視線だけを横に移せば話の途中――大した話でもないが――にも関わらず顔を俯けて、そわそわと身を縮めるヴェインが映る。
 長めの前髪が影を落としてはいるが、その頬は赤い。
「どうした。具合が悪いのか?」
 こんな所で倒れられては敵わない。教師に注意をされない程度の音量で話しかけるも、覗き込む瞳から逃げるように更に身を縮めてしまう。それに多少、神経をつつかれたのは置いておいて、ロクシスは再度、問いかけた。
「黙って倒れられても迷惑だ。熱でもあるなら…」
 今度は挙動不審の原因を探るべく銀糸を除けて滑らかな額に触れようとした手が、するりと空を切る。――また避けられた。眉間に寄っていく深い皺と獲物を狙うかの如き鋭い眼光が飛び上がって身を引くヴェインを射抜く。
 一度ならず、二度までも。だが、三度はあると思うなよ。――――口よりも雄弁に語る双眸が暗に夜のお仕置きを示唆して、ヴェインの背を冷たい何かが撫でる。
 これは一刻も早く弁解しなくては我が身が危ない。焦りが彼の口を開かせた。
「ち、違うよ…具合が悪い訳じゃないんだけど…」
「体調不良でないなら…なんだ」
 じりじり。何時の間にか腰を捉えてにじり寄るロクシスが怖い。目が既にヤる気だ。最後尾に立っているとはいえ、公衆の面前。こんな所でサれても困る。非常に困る。だが、これ以上、身動きを取れば…
「…っ!あっ…」
 せめてもう少し、腰を引き寄せられた状態からは脱しようと身を捩った刹那、するりと脚の付け根を滑る危うい感触がヴェインを擽った。咄嗟に内股に力を入れたが、後の祭り。がくりと膝が折れ、暖かな肩に倒れ込む。
 ロクシスに縋り付いて漸く姿勢を保つヴェインの顔は先よりも赤い。自ら縋り付いて来たのは良い事だが、原因がはっきりしない以上、ロクシスとしては素直には喜べなかった。寧ろ、あまりの彼らしくない姿に不安さえ覚える。
 潤む青い瞳をきつく閉じて震える頬を優しく撫でて宥める彼の耳に小声よりも一層、か細い声が舞い込んだ。
「……どうしよう……紐、解けちゃった…」
「何…?」
 紐?解けた?脳裏で言葉を反芻する。
「右側…」
 右。……右!?――もう一度、言葉をなぞり、思い当たる物が、あった。紐で右側で解ける可能性があるものといえば、彼の関連では自分が知りうる限り、アレしかない。
「なっ、まさか…」
 顔に朱を走らせるロクシスにヴェインは火照る頬で頷いた。
「………うん……ぱんつの、紐……どうしよぅ…ロクシス…」
 どうしよう、と言われても、どうするんだ。今にも泣きそうな声で囁かれても、そんな顔をされては助けるどころか嗜虐心を煽られて仕方ない。そもそも、今は全校集会の真っ最中で…
「ぁっ…やだ……脱げ、ちゃ、ぅ……」
 腰を引いて内股になる身体が震えを増す。不安定な姿勢の所為で肩口に顔を埋める形になったヴェインを受け止めたロクシスは色々な意味で冷や汗を掻いた。
 焦りが言葉に滲む。
「おい、待て、こんな所でか!?」
「…はっ、ぁ…落ちちゃうよぉ…」
 今にも零れ落ちそうな涙が瞳を潤す煌きの美しさと、助けを求めて縋る小さな爪先が厚い布地に包まれた逞しい肩を弱く掻く少しのくすぐったさ。上がった息が熱を持って漏れる湿った唇。周囲の適当に真剣な空気と校長の呑気な演説が健全と不健全の境を際立たせて、淫らな感情に更に火を付ける。――――これはいよいよ時間が無い。彼にも、自分にも。
「…仕方ないな…」
 いつ崩れ落ちるかも判らない華奢な肩を抱き、舌打ち一つで思考を切り替えたロクシスの手が上がる。
 程なく、ゼップルが声をひそませてやって来たが、肩口に押し付けた可愛い彼の表情を見せるつもりは毛頭無かった。更に強く抱きしめて牽制するロクシスは気さくで優しげなこの教師を全く信用していない。心の内ではヴェインを狙う淫行教師とすら位置付けている。錬金術師として、教師としての敬いはあれど、誰も彼もを信用するきらいのある愛しい人に関しては心を許せない敵だ。ヴェインにも散々、アレと二人きりになるな、と言っているが、当の本人は首を傾げて疑問符を浮かべる始末。…敵が多くて仕方ない。
「どうしたんだい?」
「ヴェインの体調が思わしく無いようなので保健室に連れて行きたいのですが…」
 ディオル辺りが来れば良いものを。再度、舌打ちしそうになるのを堪える。
 ちくちくと肌を刺す殺気にも似た空気に気付いているだろうに、ゼップルは、ふむ、と一つ唸ってロクシスの腕に隠されたヴェインに目を移した。
「熱でも?」
 早く許可をしろ、糞野郎。暴言が腹から食道に昇ったが、無理矢理飲み込む。
「…いえ。貧血のようです」
 嘘だ。首まで赤くしている者が貧血な訳がない。目を細めたゼップルの探る視線が二人を刺す事、数瞬。――――優男の口元が微笑んだ。
「…いいよ。校長の話もそろそろ終わるだろうから、先にアトリエに戻りなさい」

 意味有りげな口調と視線。使えないクセに食えない男だ。――――堪え切れなかった舌打ちを残し、ロクシスは小さく喘ぐヴェインを連れて講堂を後にした。


ヴェインのおぱんつは紐だろう!という妄想の末の産物。…ノックSSからよくもまあ、ここまで発展したものです(笑)とても楽しかったので後悔は微塵もしてませんがね!(…)
全校集会でこんなに色気を振り撒いていたら、マワされてしまうよ、ヴェイン…。
…え?これがコトのはじまりって事は続きがあったんだろうって?…ええ、面白おかしい限定でした(何)

2007/09/22