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 白状しろ。このむっつりめ。

見てないなんて嘘だ!

「ステルケンブルク、お前、私の可愛いロロナの絶対領域を侵そうとはいい度胸じゃないか」
「…何を言っているのか全くわからないが、失礼も甚だしい事だけはわかるぞ」
 探索から帰った面々を迎えたアストリッドは盛大に不機嫌な顔で言い放った。
 対して、理解出来ないなりにどうやらとんでもない濡れ衣を着せられている事だけは理解したステルクの表情には少しの困惑が混ぜられている。その隣でぽかんと口を開けて小動物のように小首を傾げているロロナは話題の中心が自分だというくらいしか分っておらず、そのまた隣で全ての意味が分っていて笑いを噛み殺すタントリスは巻き込まれるまで傍観する事に決めたらしい。
 半歩下がってロロナの細い肩に触れようとする不埒な手を、アストリッドは射殺すような眼光で弾き返した。
 今日、目が覚めて、ホムにロロナの居場所を聞くまで全く気付かなかった自分が腹立たしい。今日の探索メンバーは誰だって?返って来た答えはステルケンブルクとタントリス。冗談じゃない!ロロナが汚される!クーデリアがいれば話は違うが、今日はいないらしい。後を追って連れ戻すなんて面倒な事は御免だが、城門まで迎えに来てみれば、楽しげに会話をしながら歩いてくる愛しのロロナとたらしと何故か余所を向いて歩く仏頂面。こんちきしょうめ。たらしの癖にロロナに笑いかけられやがって、羨ましいじゃないか!服を贈るとか、そんな如何わしい会話を私の可愛いロロナとするな!しかもステルケンブルク、お前、ロロナから目を逸らしてほんのり顔を赤らめている気がするのは気のせいじゃないだろう!
 そんな嫉妬の炎をめらりと立ち上らせた彼女がロロナへの帰還の挨拶もそこそこに――寧ろ、ロロナにしかしなかった――言い放ったのが先の言葉だ。言った直後、ほんの一瞬だったが、仏頂面が赤味を増し、たらしが軽く噴いたのをアストリッドは見逃さない。――――野郎共、もしかしなくても見やがった。
「しらばっくれるとはな…おい、お前」
「僕?」
「お前以外に誰が居る。お前も同罪だろう!」
 楽しげに返って来る言葉に腸が煮えるが、彼が咳払いで誤魔化そうとする騎士と同罪である事は明白だ。でなければ、どうして服が云々などという会話をしながら帰って来るのか!男が女に服を贈る意味が分っていて話しているなら尚悪い!
 そもそも、ロロナの絶対領域を楽しんでいいのはこの自分だけであるとアストリッドは断言できる。彼女が借金を負った日から蝶よ花よドジっ子よと手塩にかけて育ててきたロロライナ。ほんのり薄桃色にも見える白い肌は滑らかな手触りで吸い付くように掌を楽しませ、忙しなく表情を変える大きな蒼い瞳と瑞々しい唇は熱い感情を沸き立たせる。少々抜けた性格も甘い声音で紡がれる言葉を合わせればそれすら美点だ。
 その彼女の、神聖な領域を侵すとは、持てる技術を全て使って生み出した兵器を打ち込んで地獄を見せてやってもまだ足りない。
 さあ、どんな楽園を見たんだ。ふわりと、それこそ緩慢な映像効果で捲れただろうスカートの下から姿を現した白い腿の艶と美味しそうな柔らかい腰の丸さ。そこを守る最後の砦ともいえる薄布。そんな羨ましい光景を見ただなんて、おこがましいにも程がある!
 平穏を謳歌していた野鳥ですら逃げ出す不穏な空気に気付いていない訳も無いだろうに、鬼の形相で指を指してきたアストリッドを相手にしながら余裕の微笑みで対峙する当のタントリスは軽く思い出すように緩く瞬いてから、うっとりと返して見せた。

「彼女らしい、愛らしくて清らかで、それでいて甘い色香の白でしたよ?」

 甘い色香の、白。それぞれの脳裏に過ぎったのは、何だったのか。――――ぱふ。ロロナの白い手が短いスカートの裾を握り締めた。
「え…?…ふえ…っ!?」
「なっ、お、お前、見たのか!?」
 漸く話の内容を理解した少女の肌が薔薇色を越えて林檎よりも赤くなると同時に同じくらい顔を赤く染めた騎士が吟遊詩人を振り返る。少女の師匠に至っては光を弾く眼鏡が凶悪で、けれど、色々な意味で強い視線を集めている筈の詩人は涼しい顔。
「だって、君も見たでしょう?あの角度から見えない訳ないし」
 あっさり暴露するタントリスに、ステルクは返す言葉を見つけられないまま、事実を確認しようと彼を見上げたロロナの視線にも気付かず口元を引き攣らせる。無論、その反応だけで答えは分りきったものだ。帰り道に口数を減らし、矢鱈と目を逸らして歩いていた事にも説明がつく。彼の真面目さを考えれば、事故とはいえ、見てはいけない密やかな場所を見てしまった事への罪悪感から来る行動だったのだろうが、ロロナにしてみればそんな事情を考える余裕などある訳も無い。
 指先まで赤く染まった身体がふるふる震えて、じわり、蒼い目に滲んだ涙に気付いた彼が振り向いた刹那。

「す、す、ステルクさんの馬鹿ぁぁああ!!」

「ぐふっ!!」
 会心の一撃。火事場の何とかよろしく力の篭った一撃で騎士であるはずのステルクを沈めたロロナが凶器の杖を振り回して羞恥を発散しつつ走り去る姿を見送りながら、愛弟子の行動に多少、鬱憤を晴らしたアストリッドは満足したように蹲る彼を見下ろした。
「イイザマだな。私のロロナに手を出すからだ」
 暫くは口もきいて貰えないだろうよ。にやにやと、実に楽しそうに笑う彼女を睨む余裕も――今は、無い。

 因みに、師匠の憶測通り、完璧なまでに避けられ続ける事になった男二人が漸くまともにロロナに口をきいてもらえるようになったのは一週間もあとの事だった。



……いや、もう、ほんとゴメンナサイ。だって、見えると思ったんだよ…あのスカートの短さは何かへの挑戦なんじゃないかとすら思ってるんだ…!(勘違い!)
実際、戦闘を見てると見えそうですよね。こう、ひらっと(どこ見てんだ)盗賊戦とかでクリティカル出ると野郎どもはそれに見惚れて一撃喰らってんじゃないかと思います…。
今回、ロロナの攻撃の犠牲になったのはステルクだけでしたが、タントリスもこの後、ちゃんと師匠になんか喰らってると思いますよ。で、二人ともロロナに口をきいて貰えない上に目線すら逸らされてしまうという一週間を過ごすわけです。イイザマだ!(えええ)
…それにしても、もう修正されてしまったというぱんつバグは本当にあったんですかね?

2009/09/28